THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行23 6/8


■ゴーストタウン

ジェイピー物流は埼玉にある。

都心からは電車で40分ほどの位置・・・と、いうことは宮田の通勤時間はプラス40分になるということだ。
まわりにも同じような倉庫会社や工場が建ち並ぶ場所で、少し太い道に出ると木下が乗っているような大型トラックが真っ黒な煙を吐きながら、ひっきりなしに行き来している。

宮田がこのジェイピー物流に足を運ぶのは、入社直後以来・・・20数年ぶりのこと。
当時から決してキレイな会社ではなかったが、今はそれ以上に、事務所の壁ははがれ、鉄筋ムキ出しの倉庫の柱はひどく錆びている。

「いゃ〜、宮田さん。倉庫も立て替え時期には来ているんですがね〜。ヒジョ〜にキビシイこの、ご時勢でしょ?」

社内を案内しながら頭をかく作業服姿の男は、以前、人事部長といっしょに会った会津だ。
今日は宮田もここへ来るなり会津と同じ作業服を着せられた。
真っさらなその作業服の胸には『宮田』という刺繍が入っていた。

「敷地自体はね、広いんですよウチは。都心に近いわりにはね。この辺りが畑だった頃に買った土地ですから。倉庫を建て替えるためには、荷物を移動するための新しい倉庫を先に建てる必要があるでしょ? だから建物の倍以上の敷地を確保したらしいんです、将来のことを考えてね〜」

社内の歩いていると、時折すれ違う従業員たちは、宮田に挨拶するわけでもなく、ただつまらなそうに仕事をしている。

「ところが、バブルの頃にね。ファミリーレストランやら外食産業が続々とオープンしたでしょ? うちの道路沿いの敷地も一時は全部貸し出してお店が建ったんですよ、ほら! あの辺り」

会津が指さした先には数件の・・・みすぼらしい建物があった。

「バブルがはじけてから次々につぶれちゃってね〜。もっと大手のチェーンに貸していればよかったのかも知れないんですけど・・・。最後に残ったのはあの一番多いヤツ・・・結婚式場から貸しホールになって倒産家具の販売してたんですが、そこもとうとう先月閉鎖されて。みんなつぶれちゃったもんだから建物はそのまま。倉庫を建て替えようにも、あの建物の解体費用も出ない始末で・・・」

敷地の一部がゴーストタウンと化した、この会社で唯一新しいのは宮田の作業服だけ。
しかし、その作業服もすぐに薄汚れてくるのだろうと宮田は思った。

そして、作業服の中味だって・・・。


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