THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行23 5/8


■二通の封筒

新しく課長になる軽部に対して好感を持てないでいるのは三村も同じだった。
しかも、このままでいれば4月から軽部は三村の直属の上司ということになってしまう。

確かにあの人事部長に認められているだけあって、軽部という男は仕事はできる人かも知れない。
しかし、何故か好きになはなれないタイプ・・・生理的に。

無論、会社へは仕事をしに来ているわけで、そんな好き嫌いを言うのはオトナとしてどうかと思う。
でも、自分にだって自分の生活の場を選ぶ自由はあるはずだ。

それに・・・もう、この会社にいても楽しいことなどあるはずがない。

三村が持つ大きめのハンドバッグには、すでに辞表が用意されていた。

『この度、一身上の都合により〜』

そして別な封筒には、その何十倍もの長さの宮田に宛てた手紙が入っている。

宮田に辞表を手渡せば、きっとこの間のドライブでのことを気にさせるに違いない。
かと言って、自分の気持ちは聞かれてもうまく説明などできないし・・・。

ただ、ひとつ宮田に言いたいことがあるとすれば・・・今までのお礼の言葉だけ。
宮田に宛てた手紙には田舎者の自分が今までやって来られたのは課長のお陰だということだけが淡々と綴られていた。
そして、もうこれ以上、ここで頑張っていく自信がないことも・・・。

月曜、火曜とこの手紙を渡すタイミクングをうかがっていたものの、なかなか話を切り出す勇気が持てない。
もちろん、会社でなくても宮田の携帯電話に連絡をとれば、少しくらいの時間はとってもらえるはずだ。
そのまま水曜、木曜・・・そして、とうとう週末が来てしまった。

今日は何が何でも渡そうと心を決めて会社に出ると、宮田は朝から直行で出かけている。
行き先は、ジェイピー物流。
戻り時間もはっきりしない。

内心なぜかホッとしていると・・・。
朝いつものように客先に出かけたはずの柳から三村の席に電話が入った。

「今夜。どうていも時間を作ってもらいたい。・・・別に飲みに行こうっていうんじゃないんだ。何なら会社の近くの喫茶店で・・・2、30分だけでいい」

こうまで言われると、さすがに三村も断りきれない。
それに、自分が会社を辞めるとしても・・・それまでに柳とのことも、はっきりさせておかなくてはならないと思ってはいた。


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