THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行23 4/8


■男の約束?

店を出たところで木下は思い出したように言った。

「そういえばさ・・・セイコから手紙が来たよ」

「セイコって・・・あの?」

木下の愛人だったセイコだ。

「ああ。俺の住所が変わってたもんで手紙が着くのが遅れたようだけど・・・。田舎に戻って元気にやってるらしい」

「そうか・・・そりゃあ、よかった。しかし、何で今頃」

「いや、セイコのヤツ、本格的に勉強してるらしいんだ。美術関係のな。それで、もう少し金がたまったらイタリアの工房へ修行に行きたいらしいんだけど・・・。俺が前に扱ってたイタリアの店に紹介してもらえないか・・・って」

「・・・頑張ってるみたいだな」

「俺たちも・・・頑張らないとな」

「お、おい、俺たちって言っても、俺はまだどうするか・・・。それにうちの子も今年受験で・・・。公立に受かればまだいいが、私立なんてことになったら、とてもじゃないが人生の冒険どころじゃない」

「じゃあ、お前んところの息子が公立に受かったら・・・手伝ってくれるな?!」

宮田が言葉に詰まっているすきに、木下はさっさとトラックに乗り込んだ。

「じゃあ、また連絡すらー」

アクセルをふかすと轟音がとどろく。
そのけたたましいエンジン音は以前、木下が乗っていたスーパーカーを思い起こさせた。

昼休みからは、かなり遅れて課に戻った宮田は、自分の席を見て愕然とした。

次の資材担当課長・・・正確には、資材担当管理課長に決まっている軽部がドッシリと腰を下ろして、机の上にのせてあったファイルを見ている。

「おや、これは宮田課長・・・失礼しました。ちょっと急ぎの調べものがあったんですが、いらっしゃらなかったもので・・・」

「いや、こちらこそ戻るのが遅れまして。それで何か?」

「いやいや、たまたまこのファイルがすぐ目についたもので・・・わかりました。ここまでキチンと整理しておいていただけると、後の者にとっては助かります」

「は、はあ」

別にお前のためにやってきたことじゃない・・・という言葉を宮田は、グッと押し殺した。

軽部は、あいかわらず含み笑いを浮かべた顔つきで歩き出すと、振り返って言った。

「あ、そうそう。人事部長が今週中に一度、ジェイピー物流の方へ顔を出すように・・・言ってましたよ」

「わかりました」

すっかり軽部の部下ような扱いをされた宮田は席に着くと・・・。
しばらくさっきの木下の話について考え込んでしまった。


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