THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行23 3/8


■木下の提案

昼飯に殺到していた客もだいぶ少なくなってきた。
宮田と木下はランチに付いていたコーヒーをすすりながら話を続ける。

「で? また何か始めるつもりなのか、木下?」

「ああ、これでも自分で商売やってたの長かったからな・・・。プランはないこともない」

「大丈夫か? この不景気に」

「景気がいい時に始めた商売より、不景気な時に始めた商売の方が長続きするって言うぜ」

「それは、そうだが・・・」

「ただ、ひとりじゃ始められそうもないんだ。・・・簡単に言うとな、通販で化粧品を売りたいワケよ」

「ふーん」

「宮・・・お前、化け学だったよな?」

宮田は一瞬、ドキリとした。

「化粧品の知識なんか・・・ないぞ俺には」

「いやいや、なくていいんだ。どうせ作らせるのは外注だし・・・。ただ外注を管理するにも、客に説明するのも俺じゃあな・・・」

「・・・・」

「・・・どうだ? いっしょにやってみないか? お前も左遷されてクサってるとこだろ。自分たちの力で何かをはじめるには、ひょっとするといい時代かも知れないぜ。それに・・・俺たちの歳じゃ、これが最期のチャンス・・・じゃないか?」

「し、しかし・・・。俺は商売の経験なんかないし・・・」

「そんなコトは心配するな。資金だってさっき話した通りだし・・・。俺だって前みたいに贅沢したりしないさ・・・」

「もし、俺が断ったら?」

「そん時には・・・1,000万を元手に自分のトラック買って、それで商売でもするよ。ただ、そうするとな・・・」

「?」

「どうしても長距離便になるから、ウチに戻れる日が少なくなっちゃうだろ?」

「ウチったって、今ひとりだろ?」

「実を言うとな、ちょっと前からオヤジとオフクロといっしょに暮らしてるんだ。それは、いいんだが・・・」

「年寄りだから? 心配か」

「いゃあ、ウチの両親なんかピンピンしてる。やっぱ戦争を越えてきた世代は強いな。会社がつぶれたくらいじゃ・・・俺より元気。いや・・・、娘をな、引き取ろうと思ってるんだ」

「娘さんをか? しかし、まだ小さいから母親がいないと大変だろ」

「まぁ小さいとは言っても今年から小学生だし・・・。それに元カミさんも若いだろ? 娘さえいなければ、まだまだ、やり直せるだろうし・・・」

クリスマスの夜会った、木下の娘の笑顔が宮田の脳裏をよぎった。


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