THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行22 11/11


■三村の決心

宮田はようやく正気をとり戻したのは、結局、翌朝のことだった。

自宅にいるつもりで枕元を手でまさぐるが眼鏡がない。
そこで、ようやく夕べのことを思い出した。

深い後悔の念が宮田を襲った。
眼鏡がないので、よく見えないが、窓の外が明るいので、すっかり朝になっていることだけはわかった。

三村はどうしただろう?
あたりにいる気配はない。

やがて、フスマが開いて三村が入ってきた。

「あ、課長、おはようございます。大丈夫ですか?」

「ああ、もう平気だ。・・・心配かけてすまなかったね」

「はい、これ。今、番頭さんから受け取ってきました」

そう言って手渡された眼鏡をかけると、目の前の三村の姿がハッキリと見えた。
昨日と同じ・・・洋服を着ている。
宮田は後悔の念をさらに深くした。

フロントにカギ屋が到着して、カギ屋の車で愛車を置き去りにした場所まで戻る。
昨日電話で車種と年式を伝えてあったので、カギ屋の準備も良く、とりあえずキー問題は解決した。
ただし、なくしたキーと違ってボタンひとつでロックを解除することはできなくなってしまった。

せめて昼飯でも食べて分かれよう・・・と宮田は思っていたが

「ご自宅で心配なさってるでしょ? 突然、外泊したんで」

という三村のひと言で、とにかく急いで帰ることになった。

別れ際、何となく元気のない様子の宮田に三村がそっと、ささやいた。

「いろいろ、すいませんでした」

「私の方こそ・・・いろいろ」

「あの・・・一日早いですけど・・・これ」

赤い包みの中味は、間違いなく、チョコレートだった。

「あ! ああ、ありがとう。しかし、キミは確か去年は・・・」

「ええ、会社で配るのは嫌なんです。義理チョコなんて」

「!」

「ありがとうございました」

三村は、つとめて明るくそう言うと返事を待たずに車を降り立った。
宮田の車を見送る三村には・・・会社を辞める決心がハッキリとついていた。

・・・以下、次週
2000年2月20日(日)掲載予定

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