THE THEATER OF DIGITAKE 初めての不倫旅行22 8/11 |
■露天風呂の思惑 温泉に入る時には、よく体を洗ってから入るのが礼儀だ。 宮田は露天風呂の方など目もくれずに、入念に入念に体中を洗いまくった。 ついでに・・・ほんのついでのつもりで置いてあったヒゲソリで生えかかった無精ヒゲもきれいサッパリ剃り落とした。 岩風呂に体をしずめて空をあおぐと・・・満天の星空が見えた。 キレイな星空だ。 そういえば、いつだったか・・・あれは妻が占い師にだまされて買わされた水晶玉を木下に返してもらった帰り道に見たあの夜空もキレイだった。 でも、今夜の夜空の方が当然、星の数は段違いに多い。 今夜も妻は自分と同じ、この空を建売住宅の中からながめているのだろうか・・・? そして今、自分は・・・。 妻や子供を本当に愛しているという点で、自分は妻や子供を決して裏切ってはいないと思う。 ただし、この宮田浩一郎の人生には・・・少しだけみんなが知っているのと違う部分があった。 ・・・その程度のことだ。 さて、これから部屋に帰って・・・その先は・・・。 ボチボチ布団を敷きに来る頃だろう。 食事は済んだんだから、戻った頃にはもう敷かれているかも知れない。 三村クンは・・・部屋のどのあたりで自分を待っているのだろう? まさか電車で帰ってしまったりして・・・。 いやいや、もはやそれはない。 フロントに貼ってあった時刻表によれば、もうこの時間には東京直通の電車はない。 それに彼女もずい分と飲んでいるし・・・。 布団の中に潜り込んで寝たふりでもしてる・・・かな。 布団は、やっぱり2つ並んで敷かれていることだろう。 と、なると問題は・・・間の距離だな。 寝たふりをしていたとすれば・・・当然、電気は消えているはず。 その方が距離感を感じない分、かえって好都合だ。 これだけの距離がある・・・と明確になっているにもかかわらず近づいてしまったのでは、何だかアレだし。 寝たふりをしていたら・・・もうヘタに言葉なんかかけない方がいいな。 そこから先は別世界のこと・・・ということで。 しかし、布団は敷かれていたものの・・・。 もし、こうこうと明かりがついていて・・・三村クンが、また窓のわきのソファーにでも掛けていたら・・・どうしよう? 何も言わずに布団に入るのも不自然だし・・・。 そうしたら、もう1、2杯・・・酒の力を借りて・・・。 あとは、なるようになれ・・・だ。 湯気で曇った眼鏡を湯船につけて洗って・・・上がる前にもう一度、星空をながめようとすると・・・。 はずした眼鏡がスルリと手から落ちた。 ヤバイ! と思った時には眼鏡は薄暗い露天風呂の底に沈んだ。 しばらく手足であたりをまさぐってみるが吹き出すお湯に流されたのか・・・なかなか見つからない。 幸いほかの客はみんな出てしまっていたので、こうなったら隅から隅まで入念に探すしか方法はない。 しかし、両手で湯をまさぐればまさぐるほど・・・その波で眼鏡は遠くに流されているような感じもしなくはない。 |