THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行22 5/11


■湯上がりの君

廊下を戻りながら、宮田は考えた。

とりあえず温泉に入るために部屋はとったものの・・・。
ひと風呂あびて食事を済ませたら、三村は電車で帰る気なのかも知れない。
その証拠に、部屋に備え付けられた浴衣は持って出なかったし・・・。

いや、むしろ帰すべき・・・かな。
やっぱり考えが甘かったようだ。
思春期の少年が年上の女性にリードされるように、中年の男が若い女性にリードされるなんて・・・。

部屋のフスマを開けると、すっかりと膳の支度は整えられている。

そして、窓のそばには・・・浴衣姿の三村がいた。

「み、三村・・・クン?!」

「課長・・・お先に。いいお湯でしたよ〜。私ったらそそっかしくて浴衣持って行くの忘れちゃったぁ。脱衣所に用意されてたんで助かりましたけど」

「そ、そうか・・・」

「課長も先につかって来られたら・・・。あ、でも露天の方は、まだ女湯かぁ・・・。それにお料理がさめちゃうかしら?」

「あ、ああ・・・そうだな。腹も減ったし・・・先に食事にするか」

二人は座椅子についた。
舟盛りのサシミの向こうからビールを持った三村の手がのびる。
手にしたコップがビールの重みにゆれるのも忘れて、宮田の視線は浴衣姿の三村のうなじあたりに釘付けになった。

「あ、すまん」

宮田も三村のコップにビールを注いだ。

「じゃ、とりあえず」と言って二人はビールの泡の中に唇を落とした。

湯上がりの三村は思わず「あ〜、うんめぇな」と口にしてしまった。
それにつられて宮田も「ホントに、うんめぇな」と言った。

それを聞いた三村の表情が、さらに火照っていった。


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