THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行22 4/11


■妻への言い訳

返答に困って、やや顔を赤らめる宮田を見た三村はニコリと笑った。

「本当のことを言うと私・・・温泉につかりたくなっちゃっただけなんです。ホラ、ずい分歩いたでしょう?」

「そ、そうだな。ずい分歩いたもんな〜。ウン、とりあえず温泉に入ってスッキリするといいや」

「露天風呂なんて、ひさしぶり。田舎じゃ銭湯に行く感覚で露天風呂にもよく行ったんです」

「そうかぁ・・・青森じゃあ、秘湯も多いだろうな。私も母の実家が道後温泉の近くで・・・子供の頃には、よく行ったよ、温泉」

そう言いながら宮田が思い出したのは母の顔ではなく、さっきの女将の顔だった。

「とりあえず、ゆっくりつかってくるといい。食事の後だと、露天はすぐに男用になっちゃうから・・・」

「すいません。じゃ、お言葉に甘えて・・・」

そう言うと三村はバッグから小物を2、3取り出して、そのまま部屋を出て行った。
入れ替わるように、まかないの女中が料理を運んでやってくる。

これはウマそうだ・・・なんてノンキなことを考えていた宮田は、ふと我に返った。
いかん! 自宅に電話をしておかないと!!

会話の内容を女中に聞かれるのも気が引けた宮田は廊下に出て公衆電話を探した。
ピンク電話は・・・フロントにあった。

フロントの中では番頭が何やら計算をしている。
邪魔だ・・・と思ったが、早くかけないと三村も戻ってきてしまうだろうし・・・。

意を決した宮田はピンク電話に10円玉を5〜6枚投入した。

「あ! もしもし、俺だ」

受話器を手で覆っているが、ガラーンとした玄関先に宮田の声が妙に響く。

「いや実は車が故障してしまって・・・。いや、心配はないんだ。ただ、修理が明日になるというもんで・・・。今夜は最寄りの宿で待機することになってしまって・・・」

番頭の太い眉がヒクヒク動いている。

「すまん。・・・まぁ、明日休みだったのが不幸中の幸いで・・・。ああ、また電話入れるから。それより良樹は? そうか・・・。まぁ結果が出てみないとな。それより次も頑張るように伝えてくれ。じゃ」

受話器を下ろすと残りの10円玉がジャラジャラと大きな音を立てて落ちた。
番頭が思わず、顔を上げる。

目が合う2人。

「本当に・・・不幸中の幸い・・・でしたなぁ」

番頭が含み笑いを浮かべて言った。


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