THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行22 3/11


■女将の心遣い

開かれた宿帳には住所、氏名の欄がある。
宮田は女将が差し出したボールペンでサラサラと記帳をはじめると・・・。

ウッ!とつまる宮田。
ご同伴者の欄には何と書けばいいんだ? ご丁寧に続柄を記入する欄まで用意されている。

宮田は三村をチラッと見た。
三村はお茶を持って視線を落としている。
女将の方を見ると・・・そのニコやかな口元に銀歯が光っている。

「え〜と、これはどうすればいいのかなぁ・・・」

宮田が宙をながめながら上づった声を出すと、さすがはこの道数十年のベテラン。客に余計な気遣いはさせない。サラリとひと言こういった。

「・・・え、その他1名で結構でございます」

「あ! ああ、そう」

宿帳を戻すと「それでは、ごゆっくり」と女将はフスマの陰にさがる。
宮田がホッと胸をなでおろそうとすると、締まりかけたフスマが再び開いて、女将が顔をのぞかせた。

「それから、大浴場は11時まで。露天の方は9時までが女性で、男性の方は9時半から11時半までとなっておりますので・・・。お食事は間もなくお部屋の方へご用意させていただきます。・・・それでは、ごゆっくり」

静けさが戻った。
一瞬の静寂の後、ようやく三村が口を開いてくれた。

「こめんなさいね・・・課長」

「な、何が?」

「車のキーのこと」

「そりゃあ何もキミだけのせいじゃないよ」

「・・・それと、もうひとつ」

「?」

「私みたいな女と・・・こんなところへ。・・・・ご迷惑でしょう?」

「そ、そ、そ、そ、そんなぁ」

とは言ったものの、この先どう答えていいのかわからない。


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