THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行22 2/11


■なつかしい顔

通された部屋は・・・紛れもなく、かつて妻と一泊した部屋だった。
本当は、その時だって三村と泊まることになったかも知れない部屋だけど・・・。

よほど縁があるんだな・・・と宮田は内心ほくそ笑んだ。

いかなる完璧な段取りも、こういうタイミングというか、運に勝るものではない。
と、いうことは・・・やっぱりこうなる運命だったということなんだな。
赤い糸・・・いやピンク色の糸くらい・・・かな。

かつて嫌と言うほどぶつかったことのある床柱を見た宮田は、ふと後頭部をさすった。
あ! まだ眼鏡バンドが付いてる・・・こいつは、もういらないな。

床の間を背中にして宮田が座椅子に腰を下ろすと、正面に三村も座った。
三村がどんな表情をしているのか、すごく気がかりだったが・・・何と声をかけていいのかわからない。
とりあえず、眼鏡バンドをはずすことに集中して時をかせいだ。

やがて、その静寂をやぶるようにフスマが開いた。

「本日は、どうもいらっしゃいませ」

どうやら女将のようだ。
宮田は、バンドをはずした眼鏡をかけ直して顔を上げて声をつまらせた。

「お、おか・・・女将さん?!」

何とか、とりつくったものの・・・その女将は、宮田の母親に実によく似ていた。
北海道にいるはずの母親が、まさかこんなところにいるはずはない。

「はい。女将でございます」

女将は、そう言って進むと手際よく二人にお茶を入れた。
その横顔を宮田は、まじまじと見る。
それにしても、よく似ている・・・。
ひっとしたら、宮田の後ろめたい気持ちが、厳しかった母親の面影を思い出させたのかも知れなかったが。

「この度は災難でございましたねぇ」

番頭から話を聞いたらしい女将は、そう言ってお茶を差し出す。

「ええ、まぁ・・・はぁ」

宮田がお茶をひとすすりすると、女将は続けて言った。

「あの・・・。お手数ですが、これを」

女将が取り出したのは・・・宿帳だ。


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