THE THEATER OF DIGITAKE 初めての不倫旅行21 10/10 |
■帰れない二人 玄関を開けると見覚えのある番頭が顔をのぞかせた。 「これは、いらっしゃいませ」 そこまでは愛想のいい番頭だったが、宮田が手にしたコンビニの袋を見ると、ちょっとけげんそうな表情を見せた。 「実は・・・」 宮田が理由を話すと、番頭はフロントに入ってアドレス帳を調べてくれた。 「カギ屋ねぇ・・・。まぁ知ってるところはあるにはあるんだけど・・・。車のカギはどうかなぁ?」 番頭がフロントの電話とった。まだ、ダイヤル式の黒電話だ。 「・・・そう、そうなんだよ。ずい分、お困りのようで・・・。そりゃ困るわな?! ガッハッハッ!!」 思わず大笑いをしてしまった番頭は、玄関に立つ宮田と三村の神妙な顔つきを見て、声を落とす。 「・・・うん、うん。じゃあ何とかなる?! そう、じゃお客さんに替わるから」 番頭が差し出した受話器を手にした宮田は少しは安心した表情で話しはじめた。 「どうも、お世話かけます。・・・はい、はい。車種はマークII・・・そうです。じゃあ、それで・・・。え? 明日?! そうですか・・・明日。そうですよねぇ・・・こんな時間ですから。わかりました。よろしくお願いいたします。・・・はい、宮田と申します」 宮田・・・という名前を聞いて番頭の太めの眉がピクリと動いた。 電話を切った宮田は、番頭に尋ねる。 「明日じゃないと無理なようで・・・。今夜・・・部屋ありますか?」 「お客さん、確か一度ご利用いただいた?」 「え、ええ・・・」 「はい、はい、はい。・・・ちょうど団体さんが入っちゃってるんですけどねぇ・・・。まぁ事情が事情だし・・・。それで、お泊まりはお二人?」 「い、いゃあ・・・ちょ、ちょっと待ってください」 かまわず番頭は奥に声をかける。「お〜い、ツネさぁ〜ん!」 三村のそばまで下がった宮田は小声でささやいた。 「三村クン・・・そういうわけだから、キミはここから電車で帰りなさい」 うつむいた三村は、静かに顔を上げると言った。 「そんなわけにいきません。・・・私のせいですから」 前回とはちょっと違うリアクションに宮田は驚き半分・・・そして内心、嬉しさ半分。 とりあえずシングルが2つとれれば、今夜はゆっくり話もできるし・・・。過剰な期待は禁物だ。 奥からの返事に答えた番頭は、宮田に声をかける。 「お客さん! 二人部屋でしたら何とかひと部屋ご用意できそうですけど?! どうします?」 ウッと思わず硬直する宮田。 三村は、そんな宮田のわきをすりぬけてフロントの前まで進むと、ハッキリと答えた。 「お願いします。そのお部屋で・・・」 今度はシッカリと眼鏡をかけているはずなのに・・・。 宮田には目の前のタヌキの置物が一瞬見えなくなってしまった。 ・・・以下、次回は 第22話「もう一度、不倫旅行<後編> 」 |
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