THE THEATER OF DIGITAKE |
■前話の最終ページ |
■三村しより26歳 青森から上京してきた三村しよりには、東京に心を許せる友人は少ない・・・というより、いないに等い。 もう、8年も経つというのに・・・。 課のOL2人組をのぞけば、会社の同僚たちとも、そこそこウマくやっているつもりだが・・・。 どうも肝心なところで価値観の違いを感じてしまうことが多い。 それは、やはり生まれ育った環境によるものなのか・・・。 今さら、どうしようもないのだけれど何でも都会風にしてしまうのは何だか自分を失っていくようで何となく嫌でもあった。 すべてはスタートのちょっとしたズレが原因。 入社したての頃、会社の同僚たちと一度、伊豆まで旅行に出たことがある。 久しぶりに温泉につかってから豪華なサシミを目の前にビールをひと口・・・。 思わず「あ〜、うんめぇな」と言ってしまった時の同僚たちの自分を見る目が忘れられない。 そんなことは、よくあることで笑い飛ばしてしまえばよかったのだろうけれど・・・。 しよりには、それができなかった。 以来、同僚たちと旅行に出たこともなければ・・・そのまま今日になってしまった感じ。 自分は仕事をするために会社に来ているんだ・・・と、自分に言い聞かせ、仕事の忙しさの中で都会暮らしの緊張感を何とかゴマかして、今までやってきたというのが正直なところだろう。 それでも時には、どうしても仲間がほしくて、しよりと同じように上京して働く同郷の女友達と会ったこともある。 しかし、ここ数年で・・・そんな仲間はひとり減り、ふたり減り・・・次々と結婚していった。 田舎に帰れば、もちろん友達は大勢いるが、結婚していない女友達は皆無。 昔話には花を咲かせることができても・・・当然、独身者とは中心になる話題が違いすぎる。 いっそ自分も結婚でもしてしまえばいいのかも知れないけれど・・・。 やっぱり、素直な自分を出すのが何となく怖い。 言葉のはずみとは言え、プロポーズしてくれた柳だって・・・本当の自分を知っているわけではない。 唯一、それを話せるのは課長の・・・宮田だけ。 その宮田が職場を離れることになるのなら・・・いっそ自分も辞めてしまおう。 そんな思いが、しよりにはあった。 とりあえず田舎に帰る・・・そして、誰かと結婚する。 そうすれば両親も安心するだろうし・・・。 でも、少しだけ・・・せっかく都会暮らしをした記念になる楽しい思い出もほしい。 誰にもうち明けられない思い出でも、いいから・・・。 既婚者である宮田にとって、妻以外の女性とそれなりの関係になることは、確かに不倫だ。 けれども独身であるしよりにとっては・・・ただ、好きな人といっしょにいるだけのこと。 しよりにとって、自分の気持ちを素直に出せるチャンスは・・・もうあとわずかしかなかった。 |
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