THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行21 9/10


■二人の思い

三村のカバンとコンビニの袋を下げて、2人は山道を歩き出した。

幸いサイフや携帯電話は宮田の上着に入っていたが、この場所では電話が通じない。
タクシーを呼ぼうにも呼べないし、滅多に車も通らない。

「まぁ、たまにはイイ運動だ。駅まで行けば、車のカギをどうにかしてくれる業者もあるさ・・・」

この山を越えれば駅と宿があることはわかっていた。
車を飛ばせば20分ほどの距離だが、はたして歩いてどれくらいかかることやら・・・。
せめて暗くならないうちに、この山道をぬけられるといいのだが。

さて、駅まで着いたとして・・・その先、どうしよう?
やっぱり三村だけ先に帰すべき・・・だろうな。
前回は念には念を入れて宿の予約なんかとってしまったけれど・・・。
今回は過度な期待は禁物と・・・予約などしていない。
まして息子が入学試験を受けているというのに・・・。そこまでは、とても考えられなかった。

そういえば良樹の試験は、もう終わった頃だろう・・・。どうなったかな?
いや、結果は月末にならないとわからないけれど・・・確か来週、すべり止めの試験があったはずだ。
まぁ、父親がどこで何をしてようが、もうあいつの力で何とかするしかないんだよな。
う〜ん、かといって反家庭的な行動をしてもいいということにはならないが・・・。
それぞれの自立と考えれば・・・う〜ん。

人生において、チャンスというものは、そう何回も巡ってくるものではない。
それに、ひょっとしたら・・・。
三村は、わざとキーを投げたんじゃないのか? 崖に落ちるかもしれないことを承知のうえで・・・。

宮田が黙々とそんなことを考えながら歩いている時、それを追うように歩いていた三村は、こんなことを考えていた。

この三連休のうちのどの日かにドライブへ行きたいと誘ったのは確かに自分だけれど・・・。
最初の金曜日と決めたのは課長の方。やっぱり泊まりになってもいいように、そうしたのかしら?
それに、ひょっとしたら・・・。
課長は、わざと私が投げたキーを崖の下に落としたんじゃないかしら・・・?

一時間ほど歩くと、ようやく目的地が見えてきた。

駅前の電話ボックスには、もう明かりがつく時間になっている。
そこで電話帳を頼りにカギ屋を探そうとしたが、あいにく中には電話帳など置かれていない。

このあたりで電話帳が置いてありそうな場所と言えば・・・例の旅館だけ。
一度、妻と泊まった・・・というか泊まることになってしまった例の。
それに、旅館ならカギ屋の一軒や二軒は知っているもしれない。


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