THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行21 8/10


■絶景のワナ・・・三度

車の中からおしぼりを取り出した三村は、また元気よく叫んだ。

「コーちゃん! パス!!」

宙を舞ったおしぼりが、みごとに宮田の手の中に落ちた。

「しよちゃん、うまいなぁ・・・」

「そりゃあ、ダテに毎日バレーボールしてませんから」

車のドアを閉じた三村は、また2〜3回、おもしろがってキーのボタンをカチャカチャと押してみた。
そして、ふと宮田の方を見ると

「もうひとつ行くわよ〜、パース!!」

三村が投げたそれは、さっきのおしぼりと同じ軌道上に弧を描きながら宮田の手に・・・落ちるはずだったが、おしぼりで手を拭いていた宮田が、あわてて手を伸ばしたためにはじきとばされた。

「あ!!」

三村の叫ぶ声が聞こえる。
はじかれたそれは、みこどに崖の下へダイブして行った。

硬直する三村。宮田は、きょとんとして尋ねた。

「今の・・・何? ひょっとして・・・」

「車のキー・・・」

宮田は慣れない眼鏡バンドが頭をきつく締め付けるのを感じた。

この状況を打破するために・・・まず挑戦してみなければならないのは、崖の下まで降りてキーを探すことだ。幸い今回は眼鏡バンドという強い味方もあるし・・・。

心配そうにのぞき込む三村を前に、宮田は後ろ向きで崖を降りることを試みた。
下まで2、30メートルはある。

ガラガラッ・・・。

宮田が足をかけようとした場所の土がもろくも崩れた。

「キャッ!! やっぱりやめて!! 危ない」

三村は、あいかわらず少女のように・・・今は半ベソをかいている。

宮田は言われるがまま早速、この試みを中止した。マジで危険だ。
第一、もし無事に降りられて・・・幸いにもキーが見つかったとしても、二度と昇って来られそうにない。

「ごめんなさい、課長。ごめんなさい」

とうとう三村は泣き出してしまった。
自分たちの置かれた状況をもかえりみず・・・宮田には、その姿がいとおしくも思えていた。


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