THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行21 6/10


■絶景のワナ・・・封じ!

車も滅多に走って来ない静かな山道のわき。
深く覆いしげった緑が開けて、はるか彼方の山々が見渡せるその場所は4ヶ月前と少しも変わりない。

車を止めた宮田は思わず言った。

「よかったなぁ、コンビニが建ってなくて・・・」

「イヤだ、コーちゃんったら」

三村は、すっかりその呼び名に抵抗がないようだ。
早速、車を降りた三村は崖っぷちまで歩いて行く。

車の中から、その様子を見ていた宮田は内心「言うぞ、言うぞ」と念仏のようにとなえる。
大きくのびをした三村は予想通り言った。

「すっごぉ〜い。まるで雲の上にいるみた〜い」

三村の言葉に勝ち誇ったような表情を見せた宮田は、また4ヶ月前のことを思い起こしていた。
三村にとって、この場所は今回が2回目。
宮田にとっては帰りに妻と寄ったので3回目になる。
しかも、これと同じセリフを聞くのも妻のを入れて3回目だ。

「コーちゃんも早くいらっしゃいよ! 」

宮田は内ポケットをまさぐると、何やら取り出して・・・やがてバックミラーをのぞき込む。

「早く! 早く! 」

じゃべる度に少女に戻っていく三村は、まるで26歳とは思えない。
しかし、宮田にとっては、やっぱり可愛い存在だ。

ゆっくりと三村の近くまで歩み寄った宮田は、足場を固めると大きく深呼吸をしてみせた。

あまり大きくのけぞるので、また眼鏡を落としては大変! と三村が心配そうにのぞき込む。
そんな三村の顔を見て、宮田はいたずらっ子のように、わざと顔を大きく左右に振ってみせた。

「何やってるの? コーちゃん?! また、眼鏡が・・・」

三村の顔を見ながら宮田が大声で笑う。

「はっはっはっ!! 大丈夫。これを見たまえ」

宮田が指をさした後頭部には、眼鏡バンドがシッカリ巻かれている。

「実はね、バレーボールの時に使おうと思って・・・買っておいたんだ」

「もう! 心配させてぇ」

「ゴメン、ゴメン」

「ねぇ、そろそろお腹空いたでしょ? お弁当、食べましょうよ」

「よし! じゃあ取って来よう」

宮田は軽やかな足取りで再び車へ戻った。
もう、この場所で怖いものは何もない・・・はずだった。


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