THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行21 5/10


■バック・トゥ・ザ・オータム

都市部では温暖な気候が続いているとは言え、都心を離れた山道に入るとまだかなり肌寒い。
それでも日当たりは良好で、ヒーターなどいらないくらいだ。

「わぁ〜、きれいな景色。課長! 見て、見てぇ」

ハッキリと聞き覚えのあるセリフを三村が言ったので、宮田はまるでタイムマシンにでも乗って4ヶ月ほど前の世界に戻ったような錯覚を感じた。

見ると流れる景色もあの時とよく似ている。青い葉をつけた木々は非常に少ない。
ただ、違うのは・・・。

あの時はこれから冬に向かうという頃。その後は、たくさんの雪が降り積もったこともあるだろう。
今はこれから春に向かおうという時・・・いや、春にはまだちょっとあるかも知れない。
ひょっとしたら、まだこれからドバッと雪が降ることだって・・・。
まぁいい。とにかく今日、天気が良かったんだから・・・やっぱりそれを楽しむべきだ。

宮田は最初のドライブの時から比べると幾分リラックスしたおももちでハンドルを握り直す。

思えば三村と自分の間にも、この4ヶ月間、実にいろいろなことがあった。
デートと言えるかどうかはわからないが、幾度となく2人きりで飲みに行ったりもした。
それが元で酔った柳がウチに怒鳴り込んできたことも・・・いや、今はそのことは忘れよう。

そのうえで今日またこうして2人きりでドライブに行くことを望んだ三村の本意は、いったい何だ?

左遷させられた自分への同情の気持ちからか・・・。
優しい彼女のことだから・・・それもあるだろうが・・・。
グータラOLの山本でさえ、今度の組織変更には怒りを感じたほどだ。真面目な三村が何も感じないわけはない。

ついこの間まで三村が相談したがっていたのは会社の人事に関する噂のことだったはず。
それは、あの横暴な正式発表で不本意ながら明確になってしまったし・・・。
と、なるとやはり自分に対する同情なのか?

・・・じゃあ、いったい何で同情する気持ちが、2人きりで出かることにつながったんだろう?

「コーちゃん?!」

三村のささやきにドキリとした宮田はチラリと助手席を見た。
三村は続けて言った。

「さて、私は誰でしょう?」

宮田は少しうわずった声で答えた。

「し、しよちゃん?!」

「ピンポーン!!」

少女のように喜ぶ三村の声に、4ヶ月前の緊張がイッキによみがえってきた。


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