THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行21 4/10


■三度目の街

三村が住むこの街に来るのは、これで三度目だ。

最初は去年秋のドライブ。
二度目は暮れ・・・彼女のアパートで鍋をつついた。
そして、今日も最初に来た時と同じコースを同じ車で走る予定だが・・・。
はたして、帰りはどうなるのか・・・今は何とも言えない。

約束は最初に来た時と同じく駅前にある小さな本屋の駐車場。
この時間は、まだ店は開いていない・・・はずだが。

見ると、確かにこの場所のはずだが・・・本屋がない。コンビニエンスストアになってる。
24時間営業のコンビニ。ここらへんには、ほかに開いている店がないらしく、早朝から結構、繁盛している。繁盛しているのはいいが・・・車を止めておける場所がない。

何とか邪魔にならないあたりに車を着けると、すぐにそのコンビニから三村が飛び出して来た。

「ごめんなさい、課長! 私、うっかりここがコンビニに変わったこと言い忘れてて」

「ああ、いや。すぐにわかったから、よかったよ」

「去年いっぱいで本屋さんつぶれちゃったみたいで・・・。今年からコンビニに」

「便利になっていいじゃないか?!」

「私は本屋さんの方が、よかったなぁ・・・」

助手席に座った三村の手には大きめのバッグのほかに、コンビニの袋が握られている。

「どうしたの? そんなに、いっぱい買い込んで」

「あ、これ・・・。お天気が良かったら、あそこのホラ、景色のいい場所でお昼はお弁当食べようと思って・・・。自分でも作ってきたんですけど、ひょっとして量が足りないといけないと思って買ってきたんです」

「景色のいい・・・。ああ、あの場所ね」

それは間違いなく、最初のドライブで宮田が眼鏡を落とした因縁の場所を指していた。

「よかった! お天気が良くて!! きっと眺めがいいでしょうね?!」

「そ、そうだね・・・。しかし、車がドロドロに汚れててねぇ・・・」

「え? 車。汚れてました?」

「そうなんだ・・・夕べ雨か雪でも降ったみたいで・・・せっかく洗ったのに」

「いいじゃないですか?! それより今日、天気が良かったことを喜びましょうよ。ね?」

「そうだな・・・今日、天気が良かったことを喜ぶべき・・・だな」

ふたりを乗せた車は、去年の秋と同じコースを走り始めた。


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