THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行21 3/10


■ロータリーの父子

まだ、あわてるほどの時間ではなかった。休みなので早朝の道は、充分空いている。

駅前のロータリーに車をつけた宮田は助手席の良樹に言った。

「まだ少し時間があるな・・・。ホームは寒いだろうから、もうちょっとここにいろよ」

「ああ」

「・・・どうだ? 自信はあるのか?」

「とうさん・・・」

「ん?」

「受験生に向かって、そういう言葉はプレッシャー以外の何ものでもないぜ」

「お! すまん」

口を閉ざした宮田は、ここから三村との待ち合わせ場所までのコースを頭の中でおさらいしていた。
すると、良樹が言った。

「とうさんの方こそ・・・自信あるのかよ?」

「え?! 何? な、何の自信?」

三村の笑顔を思い浮かべていた宮田は、良樹の言葉に動揺をかくせなかった。

「だって今度、職場変わるんだろ?! かあさんに聞いたよ」

「な、何だ、そのことか・・・。そんなこと子供が心配するこたぁない。今は自分のことだけ考えてろよ・・・。あ! そうだ」

宮田はおもむろに内ポケットから携帯電話を取り出すと、そこにぶら下がっている木製のアクセサリーをはずした。

「ほら、良樹。これ、おまえがくれたヤツだけど・・・今日一日、貸しとくよ」

「どうして?」

「どうしてって・・・。おそろいなんだろ? 彼女と」

「・・・また受験生を動揺させるようなことを」

「あ! すまん」

「ありがと、借りとくよ。・・・じゃあ行くわ」

そう言ってアクセサリーを握った良樹は車を降りた。

「頑張れよ、良樹。受験票持ったか?」

「持った、持った」

そう言うながら良樹は改札の方向へ去って行った。

さぁ、父親としての務めは終わった。
これから、いよいよ・・・男としての務め?が始まる。


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