THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行20 9/12


■新任課長の挨拶

人事部長の指示で、宮田は軽部を連れて課に戻った。
課の連中に軽部を紹介するために・・・。

「どうも、軽部です。4月から資材調達管理課の課長をおおせつかりました。この中のみなさん、全員とはご一緒できませんが・・・。4月に向けていろいろと教えていただかなければならないことも多いので、ちょくちょく顔を出させていただきます。どうぞ、よろしく」

本来、こういう挨拶は課の全員がそろっている朝一番にするものだ。
しかし、人事部長いわく・・・「どうせ、全員が残るわけじゃないんだから」。
確かに合理的と言えば合理的ではあるが・・・。

軽部は、ひたすらニヤけた表情で、そこにいる者たちを見回す。
課の者たちは、ほとんどが無表情だ。

「三村さんは・・・どなたですか?」

軽部の言葉に三村が答えた。

「はい。私です」

「ああ、キミが三村クンね。これから長いお付き合いになると思いますが・・・よろしく」

そう言って右手を差し出す軽部。
仕方なく三村も右手を出して握手した。

「おお。お仕事頑張っているようだねぇ。手がカサカサだぁ」

三村が眉をひそめるのも気にせず、両手で三村の手をなでまわす軽部の態度は、どう見ても安キャバレーのホステスにでも接しているようだ。

「ご栄転早々、セクハラはマズイんじゃないっスか」

そう声を出したのは、社に戻って以来、眉間のシワがとれない柳だ。

「や、柳クン。キミがセクハラうんぬん言うのは、ちょっと・・・どうかなぁ」

宮田もあわてて口をはさむ。

3人の男性に囲まれるカタチになった三村は、ただ沈黙を守るばかりだ。

やがて、ようやく三村を手を離した軽部が言った。

「ま、ま、みなさん。いろいろあるようですが・・・。もう、この課も長くないんですから・・・残りの短い期間、仲良くやりましょうや・・・。じゃ、私はこれで」

あいかわらずニヤけた軽部が背中を見せると、柳はあからさまに不機嫌な顔をして足早にその場を去った。
三村は、両手をグッと握りながら、何かを必死に耐えている宮田の横顔を見つめていた。


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