THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行20 8/12


■人事部長の野望

人事部長は、いつもの会議室にいた。
まるで、この会議室は人事部長個人の部屋と化している。

「宮田です」

「ああ、入って」

今日も見慣れぬ顔がいた。
紳士服の青山で購入したと思えるスーツ。目元、口元は笑みをうかべているが・・・何となくいやらしく見える。

人事部長は、あいかわらずテーブルにファイルを広げながら言った。

「宮田クンは・・・知らんだろうね、彼。大阪で中途採用で入ったから・・・」

「はぁ」

「軽部クンだ」

軽部! じゃあ、コイツが事実上、自分の後の課長・・・そして三村の上司になる男?!

「軽部です。本社のことは何分まだよくわからないもので、ひとつご指導のほどを・・・」

立ち上がった軽部は宮田に軽く会釈した。その口元はニヤリと笑っている。

「宮田です。・・・資材調達課を廃止した後、新しくできる資材調達管理課の・・・課長になられるんですよね、軽部さんは?」

「まぁ、課長と申しましても、宮田さんがおられたような何人のも部下がいる課ではありませんから・・・」

人事部長がすかさず口をはさむ。

「そう! 宮田クンには、ひょっとしたら話しそびれてしまったかも知れんが・・・。やはり、資材調達に関して本社でコントロールする部署がないと何かと困るということで・・・。一応、管理課を設置することになってね。もちろん、実際の仕事はキミに行ってもらうジェイピー物流の方へアウトソーシングすることになるんだがね」

「はぁ・・・」

「これまでの資材調達課に比べれば規模は半分以下だ。キミにやってもらうほどのこともないし・・・。そこで軽部クンに来てもらったというわけだ。・・・実を言うとな、彼は私の大学の後輩で、非常に優秀なんだが本社にポストが空かなくてね。とりあえず今回、小さいながら任せる部署ができたもので・・・ちょうど、よかった」

「・・・そうですか」

結局、宮田はこの2人を前に、自分の言いたかったことは何ひとつ言えなかった。
あの、ものぐさな社長をうまく利用しながら、この人事部長が裏で手を引いて新しい体制を作ろうとしている構図が、ようやくハッキリとわかった。

しかし、それによって会社の業績が上がれば・・・結果的に多くの社員たちは助かるし、人事部長のやったことは正義として認められる。

自分や自分の課の者たちは、ほんの小さな犠牲に過ぎない・・・のかも知れない。


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