THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行20 4/12


■宮田の新兵器

かれこれ20分ほど・・・宮田は店員の勧める眼鏡をかけては、はずしを繰り返していた。

「どうも・・・あなたらしくないのよねぇ」

妻がOKを出さないのが最大の理由だ。

店員はあせった。これは、よくないパターンだ。
このまま、この2人を疲れさせて「じゃ、ほかの店も見てみるか」なんて、ひと言でも言われようものなら二度と、この客は戻って来ないだろう・・・経験から言って。

宮田の妻が、ふと「これなんか、どうかしら」と手近なフレームを取り上げる。
それを見るなり宮田は、つぶやいた。

「何だ・・・前に落としたヤツとそっくりじゃないか」

どうせなら、少しは変わったものの方がいいと思っていた宮田は、しぶしぶそのフレームを試す。
と、この時とばかり店員が叫んだ。

「これは、お似合いでございますぅ〜!!」

「そうね、やっぱりあなたには銀ブチが似合うのよ」

「ですね〜! ですね〜!」

店員は必死だ。

「そうかぁ・・・。じゃあ、コレにするか・・・」

「ありがとうございます! さ、さ、こちらへ」

ようやく肩の力がぬけた店員は、2人を奥のカウンターに案内して座らせた。

検眼を済ませ、レンズを決める。
店員がオーダーシートに記入していると、宮田が言った。

「おお、これはいいぞ」

一瞬ヒヤリとする店員。ひょっとして、オーダーシートの書き直し?

見ると宮田はアクセサリー・コーナーにぶら下がっていた眼鏡バンドを手にしていた。
フレームにつけて、眼鏡が落ちないように固定する・・・アレだ。

「これもください」

「はい。ありがとうございます」

ホッとした店員はオーダーシートの記入を進めた。

「何です? あなた。こんなものつけてまでバレーボールするんですかぁ?」

「いくら予備があったって、壊しちゃもったいないだろ?」

「それは、そうですけど・・・」

「あの、宮田様」

オーダーシートの記入が終わった店員が言った。

「フレームは50%オフになっておりまして・・・」

「はい、はい」

「レンズと眼鏡バンド、合計で・・・消費税含めまして36,820円になります」

「え?! は、はい。じゃあ・・・カードで・・・いいですか?」

「結構でございます、はい。カードをお預かりいたします」

店員がレジに移動したとたん、妻がささやいた。

「バレーボールの時には絶対につけてくださいね・・・眼鏡バンド」


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