THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行20 3/12


■乱立地帯

次の日曜日。
妻の勧めに従って、宮田は眼鏡屋に足を運ぶことになった。

最寄りの駅から少し離れた国道沿いには、何軒かの眼鏡チェーンが乱立している。
新しい店が工事をはじめる度に「何の店ができるんだろう?」と期待に胸をふくらませていたが、オープンしてみると、みんな眼鏡屋で何となくガッカリした地域だ。

妻と2人で、そのうちの一軒に入る。
別にどこでもよかったが、一番駐車場に車が入れやすそうな店を選んだ。

ところ狭しと陳列される眼鏡のフレーム。
手にとってみると値札はほとんど半額で・・・よくこれほど乱立したところで経営が成り立つものだと、あらためて思ったりもした。

宮田は、とっかえひっかえ眼鏡フレームを試してみる。
が、レンズの入っていない眼鏡をかけて、いくら鏡を覗き込んだところで・・・よく見えない。

見ると、妻は宮田のことなどそっちのけで、婦人用の眼鏡の前で、いろんなフレームを試している。

「おい! 何やってんだ?」

「だって、キレイなんですものぉ」

そこへ店員が近づいて来た。

「よくお似合いですよ、奥さま」

「アラ、そうかしらぁ」

妻は、ひたすら鏡をのぞき込んではニコニコしている。

「いくら似合ったってしょうがないだろう? 別に目が悪いワケじゃないんだから」

それを耳にした店員は、次に差し出そうとして手にとったフレームを静かに置いた。

「でもぉ・・・そのうち老眼でお世話になるかも知れないし・・・」

「そん時はそん時。また、新しいデザインのが出てるだろ? ねぇ?」

宮田に同意を求められた店員は「え、ええ」と小声で答えたが、さっきよりはるかにハキはない。

「それより俺の方を見てくれよ・・・。眼鏡とったら見えなくなっちゃうんだから」

「あ! ご主人さまのご用でしたか!! 今、こちらのフレームが人気でございます」

いきなりハキを取り戻した店員は、そう言って宮田を後の棚へ案内する。
仕方なく、妻もそれに続いた。


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