THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行20 2/12


■妻の心配

地球の温暖化は深刻な問題だ。
しかし、冬だと言うのにポカポカ陽気が続くのは、昼休みのひとときにバレーボールを楽しむには、ちょうどいい。

家庭でのゴタゴタがひと段落して何となく気持ちが晴れた宮田は、昼休みのバレーボールにも積極的に参加するようになった。

思えば、この連中とこうしていられるのも、この春までの話。
そろそろ正式な人事異動の発表もあることだろう。

一応、出向というカタチにはなるものの、自分がもう本社に戻ってくることは、まずない。
自分の姿を少しでも連中の思い出の片隅に焼き付けたい・・・という気持ちもあった。

それに、三村しよりの笑顔も・・・自分の思い出の中にひとつでも多く焼き付けておきたい。

会社で昼休みにバレーボールが流行っていることを妻に話すと、妻は心配そうに聞いた。

「・・・あなた。大丈夫かしら?」

宮田は一瞬ドキッとした。
まさか、その中に宮田がお気に入りの娘がいることを妻が悟っているのでは・・・と少し身を引いて聞き返す。

「な、何が?」

「何がって・・・決まってるじゃない? 眼鏡よ」

「め、眼鏡?」

バレーボール=三村しより=眼鏡・・・と連想していけば、宮田の脳裏には妻にナイショで行った、三村との旅行がよみがえる。
あの、不発に終わった不倫旅行・・・。

もちろん、妻はそのことを知らない・・・はずだ・・・が。

「バレーボールって・・・駐車場でやってるんでしょ?」

「そ、そうだよ」

「眼鏡落としたら・・・壊れちゃうでしょうがぁ。あなた、あれ以来、そのベッコウのままで。新しいの作ってないんですから・・・」

「そ、そうだな」

あれ以来・・・という言葉に、もう一度ドキリとしながら宮田は答えた。
三村に似合う・・・なんて言われたもので、ずっとかけ続けているベッコウの眼鏡。

しかし、それも新しい会社に移ったら・・・かけていても意味がない。


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