THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行19 7/14


■ひさびさの甘きかおり

会社にいる宮田の元に妻から電話が入ったのは、人事部長に健康診断書を提出して来た直後のことだった。

「今夜、早めに戻ってほしいんですけど・・・」

「良樹のことか?」

「それも、そうなんですけど・・・。実は世理子が結婚相手を連れて来るって」

「ヨリちゃんが? ・・・そうか、わかった」

宮田にとっても世理子は気さくな義妹だ。
しかし、よりによってこんな時期に・・・とは思ったが、世理子というカンフル剤でもあった方が、ウチの状態を修復するには、かえって好都合かも知れない。

宮田が眉間にシワを寄せていると、机の上でコトリと音がした。

「課長、お茶です」

三村しよりだった。

「ああ、ありがとう」

めずらしく、まわりに人がいないのを見計らって、三村はささやくように言った。

「あの・・・課長」

「何だい?」

その声のトーンに、宮田は家や仕事のゴタゴタも忘れて、ひさしぶりに禁断の甘いにおいをかぎとった。

「実は・・・また、あらためてご相談したいことがあるんですけど・・・今夜、付き合っていただけませんか?」

今夜・・・という言葉を聞いたとたん、宮田は現実に引き戻される。

「今夜かぁ・・・今夜はちょっとマズイんだ、すまん」

「・・・そうですか。ごめんさない」

「今夜はアレだが・・・」

と発展的な話に持ち込もうとしたところで課の人間が数人バラバラと戻ってきた。
あわてた三村は給湯室に引き返す。

セキばらいをひとつして、仕方なく仕事に戻った宮田は・・・ひさしぶりに携帯電話の電源が間違いなく入っていることを確認した。


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