THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行18 13/14


■茶パツの主張

だが、ここは大人としての威厳を持たなければならない。

「そりゃあ家族が幸せにくらして行くために・・・」

そう話し出した宮田の脳裏に夕べの妻の顔がふと浮かんだ。
何て説得力のない話を自分はしてるんだろう・・・そう思ったとたん言葉は尻つぼみになってしまった。

「アタシのウチ、歯医者なのね」

「・・・じゃあ、良樹はキミのウチに?」

「当たり! ・・・で、ウチの両親はアタシを歯科衛生士にしたいって思ってるワケ。その方が安心でしょ? 親としては」

「それは・・・そうかも知れんな」

「そのうち同じ歯医者とでも結婚して・・・場合によってはウチを継いで・・・。でも、そんな風に見えちゃうのが・・・イヤなのよね」

「しかし、サラリーマンと違ってせっかくそういう土台があるんなら、やっぱり幸せじゃないかな? それは」

「エラそうなこと言うようだけど・・・幸せって作られるモンじゃなくて作るモノでしょ? 自分で。じゃなきゃ本当に自分で幸せだなんて思えないじゃん」

「う〜ん。それは理想かも知れないけど、世の中、自分の理想通りにはいかないからなぁ・・・」

「できるかどうか・・・やってみなきゃわかんないじゃん。それでダメならあきらめもつくかもしんないけど、人の言う通りにして、自分がやりたいことやんなかったら後悔するよね、きっと。そんなの、つまんないじゃん」

「・・・うん、そうだ。いいこと言うなぁ・・・茶パツのクセに」

「あ! オジン!! 人を見かけで判断してる」

「いや、すまん。・・・とにかく頑張りなさいよ」

「おじさんもね。うー寒。じゃ帰る。良樹クンによろしく・・・あ! やっぱ何にも言わないでね」

クミは言いたいことだけ言うと、風のように去って行った。
ずい分物事をズバスバ言う娘だが・・・なんとなく憎めない。

外見はともかく・・・息子の趣味も悪くない、と宮田は思った。


Next■