THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行18 12/14


■噂のあの娘

それは、何の変哲もない携帯電話・・・いや、そこには宮田の携帯とまったく同じ木製のアクセサリーがぶら下がっている。

「おじさん・・・良樹・・・良樹クンのお父さんでしょ?」

「・・・キミは?」

「アタシ、前島クミ。良樹クンの・・・トモダチ」

宮田は記憶をたどった。

「ひょっとして以前、その携帯電話をうちに忘れていった?」

「あ、そうそう。おばさんからトモダチに渡してもらって・・・」

「そうかぁ・・・良樹の年上の・・・」

彼女・・・と言おうとしたが、おそろいのアクセサリーを自分にくれた良樹のことを思うと、そうは言わない方がいいと思いとどまった。

とりあえず、ベンチに腰掛けた2人。お互い妙に気恥ずかしい感じがしていた。

「良樹クン、元気?」

「あれ? 会ってないの? ああ、会ってないんだろうね・・・。まぁ、元気に・・・というか実は私もここんとこ帰りが遅くて、ゆっくり顔は会わせてないんだが・・・勉強はしてるようだね」

「そう、よかった。・・・虫歯はもう大丈夫なのかなぁ?」

「そう言えば珍しく自分から歯医者に行くなんて言ってたっけなぁ・・・」

「キャハハ」

「ところで、キミは何で保健所へ?」

「アタシ、春から美容師学校へ行くんで、願書につける診断書が必要だったから。・・・おじさんこそ何で?」

「いゃあ、私も同じようなもんだ。春から職場が変わるんで、ちょっと必要になってね・・・」

「ふ〜ん。社会に出てからも、そんなことあるんだぁ?」

「そりゃあ、あるよ。いろいろね」

「面倒なのは学生の時だけだって思ってたのに」

「それは逆だろ? 学生時代ほど自由なものはないよ」

「そうかなぁ・・・お金ないし」

「そりゃあ社会に出て仕事につけば、学生の頃よりは自由になるお金は増えるかも知れないけれど・・・。それも一時の話。家族を持つと、そうもいかないだろ。お金がない上に自由までなくなっちゃう」

「じゃあ、何が楽しくて生きてるの?」

宮田はちょっと言葉に詰まってしまった。


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