THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行18 5/14


■作業服の男

宮田が自分の席に着いたのは、もう11時近くのこと。
何事もなかったように書類を整理をしていると、すぐ昼休みになってしまった。

社内の若い連中に根付いたバレーボールの誘いには今日ものれそうにはない。
言い出しっぺとしては、毎度断るのも気が引けるので、今日は休み時間ギリギリまで喫茶店にこもることにした。
ホットミルクくらいなら・・・何とか飲めるまで復活してきたし。

しかし、人事部長の用事とはいったい何なのか? 気がかりだ。
ひょっとして、この間の異動の話が変更になったとか・・・?
いやいや、そんなことはないだろう。今となっては余計な期待を持つことは、かえって危険だ。もし違っていたら、後で必要以上にガッカリすることになってしまうし・・・。

午後1時。宮田は人事部長が指定したA会議室のドアをノックした。

「宮田です」

「おお、宮田くん。ささ、入って」

室内には人事部長のほか、見慣れぬ男がひとりいた。スーツではなく作業着姿の男。
その男の正面に立って見ると、作業着の胸に刺繍の文字が読みとれた。「ジェイピー物流」

「宮田くん。こちらジェイピー物流の会津さん」

作業着姿の男が立ち上がって、名刺を差し出した。

「ア・イ・ヅ・・・と申します」

名刺入れを持って来なかった宮田は、ややあわてた。

「私・・・宮田です。ちょっと名刺入れを置いてきてしまって・・・」

人事部長がすかさず口をはさむ。

「いいよ、宮田くん。すぐに新しい名刺に変わるんだから」

「は、はぁ・・・」

今日の話の趣旨は、ジェイピー物流の会津を交えて、宮田の異動までの準備に関する件だった。

頭を良くふりながらしゃべる会津が言った。

「いゃあ〜、今はどこの業界もひじょ〜にキビシイ状態でしょ?! 本社から宮田さんのような優秀な人材を迎えることができてホント、助かりますわ」

「いや、お役に立てるかどうか・・・」

あいかわらず冷たい視線の人事部長が、うつむきかげんの宮田を見た。

「宮田くん、ぜひ役に立ってくれなきゃ困るよ。・・・当社としてもね」

「は、はい」

すでに自分はこの会社の一員として見られていない・・・そんな思いが宮田を包んだ。


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