THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行18 4/14


■スーパー酔いZAMA-C

宮田は出社が遅れているにもかかわらず、新橋で途中下車した。

機関車が飾ってある方を出て古い駅前ビルの裏手の路地を入る。
途中、かつて三村と2人で何度か入った牛丼屋の前を通り過ぎ、何となく懐かしい気分になったが、今は牛丼など見ただけで吐きそうだ。

幸いなことに宮田が目指した調剤薬局は開いていた。

「すいません・・・二日酔いがヒドいんですが・・・」

パンチパーマの薬剤師がオーバーアクションで両手を振りながら話し始めた。

「OK! お客さん。どんな二日酔いも、たちどころに治る・・・当店自慢のスペシャル調合薬。コレ! お勧め!! 1回分530円ポッキリ」

「それ・・・それをお願いします」

「グラッチェ! 少々お待ちを。今スグ調合すっから」

宮田が途中下車までして、わざわざこの店に来たのは、この薬が目的だった。
あれは2年ほど前の話になる。
取引先でイヤというほど歓待されて、ひどい二日酔いになった。
その翌日たまたま、いっしょに外出することになった柳が、この店の名物薬には年中お世話になっていて、勧められて一度飲んだことがある。
あの時より30円ほど値段は上がっていたが、今調合してもらっているのは、その時飲んだ薬のはずだ。

やがて薬剤師は10cm四方ほどの油紙に乗せられた薬とコップ一杯の水を手に戻ってきた。
粉薬や錠剤、カプセルまでいっしょに盛られている・・・あの時の薬に間違いはない。

「はい、お水。これ全部、イッキに飲めば15分で二日酔いとおサラバ。名付けて"スーパー酔いZAMA-C"。一応、ビタミン配合」

ググッ・・・宮田は言われた通り、イッキに飲み干した。

新橋の駅まで戻って、湾岸にある会社へ向かうゆりかもめに乗った頃には薬が効いてきた。薬剤師は何となくうさんくさいが、確かに効きめはある。

こんな思いをすることなど数年に一度あるかないかだが・・・とりあえず柳には内心感謝しながら、ゆりかもめを降りた。
宮田が柳に感謝の念を抱いたのは、2年前にあの薬屋を教えてもらった時以来、2度目のことだった。

その柳も、この4月からは大阪勤務だ・・・。
本人は、まだ知る由もないが、大阪に行ってこの薬が手に入らなくなったら、そうそう二日酔いというわけにもいかなくなるだろう。


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