THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行17 11/13


■2人の中年男

今夜の宮田はいつもより心なし酒を飲むピッチが早い。
3杯目の焼酎をグッと飲み干すと少し強い口調で言った。

「大変どころじゃないよ、まったく。どうして俺が下請けに行かなきゃなんないんだ? まったくゲセン!!」

「ははぁ・・・。それを聞いてほしかったワケか」

「そ、そういうワケじゃあ・・・」

「まぁ、いいサ。俺も自分のコトを話せるのはおまえだけだし・・・お互いさまだ」

「・・・すまん。こんな話をしても、おまえには迷惑かも知れんが・・・」

「友達の愛人押しつけられたり、サンタクロースの格好させられるよりゃマシだろ?」

「はっはっは! まいったなぁ・・・」

「・・・だけどよ、宮。このご時世で行く先の会社があっただけでも、みっけもんじゃないのか?」

「確かに・・・な。実は、うちの課でもリストラされる者が出て・・・今日はその部下に、その話をしたんだが」

「つらいねぇ・・・管理職は」

「ところがだ。その部下は覚悟してたって言うんだよ、顔色ひとつ変えずに。それならそれで別にいいや・・・って感じでな。何か拍子ぬけしちゃったよ。・・・いったい、どういう人生観をしてるんだか。今まで自分は会社で何をしてきたのかってこと・・・思わないのかねぇ?」

「・・・で、宮はどう思うんだ?」

「何を?」

「宮は、いままで会社で何してきたんだい?」

「そりゃあ職務に忠実にやってきたサ、俺は。命令されたことはキッチリやってきたつもりだし・・・」

「ははぁ・・・それだな」

「それって?」

「つまり言い方をかえれば、言われたことしかやって来なかった・・・わけだ」

「・・・・・」

「言われたことをやるだけなら・・・機械にだってできるもんなぁ。言われた以外っていうか・・・言われた以上をことをやらないと、本当の評価にはつながらない。・・・これは、俺が自分で商売やってきた教訓だけどな」

「・・・・・」

宮田はすっかり、うつむいてしまった。

「おい、宮。どうした? ・・・きつかった?」

「・・・ああ少し」

「でも、言われた以上をことをやり過ぎると・・・会社は・・・」

木下の声が震えたのに気づいた宮田が顔を上げた。
木下は下唇をかみしめながら続けた。

「・・・つぶれちまうんだよな。簡単に・・・」


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