THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行17 10/13


■不幸合戦

川崎の駅を降りるのは宮田にとっては久しぶりのことだ。
毎日、電車で通過はしているけれど。

居酒屋に腰を下ろした2人は、まず生ビールを注文した。
安い店だけあって平日だというのに、なかなか繁盛している。おかげで、すぐ向かいに座る相手の声も聞きづらいほど騒がしい。

「で、どうした? その後、奥さんとは」

宮田が木下の顔をのぞき込む。
おしぼりで顔中をぬぐいながら木下が答えた。

「別れた。・・・いや正確には、まだ籍は入ってるけど。もう時間の問題だ」

「そうか・・・」

「俺、早生まれじゃん。今月の20日が誕生日なんだよ。だから、20日に離婚届出せって言ってあるんだ。・・・人生の区切りとして・・・な」

「・・・・」

生ビールが2つ運ばれて来た。

「じゃあ、誕生日・・・・」

おめでとう・・・と、うっかり言おうとした宮田は、あわてて口をつぐんだ。
幸い木下は聞こえないふりをして・・・ビールをグッと飲みほした。

2杯目からは焼酎をボトルで頼んだ。つまみは焼き鳥にやっこ。
木下は、さっきからつくねばっかり口にしている。

「珍しいよな、宮。おまえが誘ってくるなんてサ」

「いゃあ、おまえのことが気になってな・・・。でも思ったより元気そうでよかった」

「じょげてたって来るからな・・・借金とりは」

「だいぶあるのか? 負債」

「2億まではないけど・・・1億5000万くらい、いやもうチョイかなぁ」

「1億5000?! 返せるのか?」

「返すより・・・しょうがねぇな。まぁオヤジの持ってた不動産を処分して6000万か7000万。後は俺が持ってた家やら車やらで4、5000万。・・・残りは働くっきゃない。5000万くらいの借金なら死ぬまでには何とかなるだろ。家でも買ったと思えば・・・むろん、何にも残らないけどな」

「・・・実は俺も今度、職場を変わることになってな」

「昇格か?! そいつは、おめでとう!!」

「いや・・・その逆・・・なんだ、実は。下請けに・・・」

「フーン。大変だな、サラリーマンも」

焼酎がまわって来ていたせいか・・・木下のその言葉に、宮田はちょっとばかりカチンと来た。


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