THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行17 8/13


■唯一の友

宮田にとって会社での長い一日が終わろうとしていた。
入社以来、会社にいる時間がこんなに長く感じられたのは初めてのことだ。

事務所には、もう数名しかいない。
柳は客先から直帰したようだ。
三村は、あいかわらず机の上をキチッと整頓して10分ほど前に帰った。

ものすごく疲れる一日だったのに・・・宮田は、このまま家に帰るのをためらっていた。

誰かと話がしたい。
でも、異動の関係の話など部下にできるものではないし・・・。たとえ三村クンでも。
思えば腹を割って話せる同僚もいない。今日になって、ようやくそんなことにも気がついた。

おもむろに手帳を取り出した宮田はメモをたよりに受話器に手をかけた。

090・・・

「もし、もーし」

相手は出た。だが、相手先の電波状況が悪いようで、すごくザーザー言ってる。

「宮田だけど」

「もし、もーし。木下でーす。だーれー」

「み! や! た!」

「おー! 宮かー、どうしたー」

旧友の木下の話すのはクリスマス・プレゼントを娘に渡してほしいと頼まれて以来のことだ。
そう言えば、無事渡したことを報告するのも忘れていた。

「いきなりで悪いんだけどー、会えるかー、今夜ー」

「オー! ちょうどいいー。じゃあ30分くらいでー、おまえの会社のー、前に行くからー」

「そうかー、よかったー、じゃあー待ってるー」

その後の木下がどうしたのかということも気にはなっていた。
それに・・・何より自分のことを話せるのは木下以外にはいなかった。


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