THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行17 5/13


■知らぬがホトケ

1枚のコピーを手に、宮田が会議室を出た時には、もうお昼近くになっていた。

ゆっくりと廊下を歩いて・・・ふと木目調のドアの前で足を止める。
そこは去年まで大林専務がいた部屋だ。

大林元専務と2人きりで送別会をしたのは、つい先日のこと。
まさか自分が、すぐにこんなことになろうとは・・・。
年頭の社長の挨拶の意味も今ようやくわかった。
しかし、わかった時には・・・遅かった。

事務所の方から部下たちが飛び出してきた。
三村やほかの課の連中もいる。
宮田は、あわてて手にしたコピーを内ポケットにしまい込んだ。

バレーボールを抱えた三村が言った。

「あ! 課長!! ボールお借りします。今日は天気がいいんで、みんなで外でサンドイッチでも食べて、すぐにバレーボールしようって・・・」

「ああ、もちろん、いいよ」

「課長もよかったら参加してくださいねぇ。言い出しっぺなんですから・・・じゃあ!」

何も知らない課の連中はハツラツとしている。
宮田は力無い笑顔で、それを見送った。

課に戻ると、いつものように鈴木が一人ポツンと残されていた。
何やら自分の机のまわりを見回している。

「鈴木クン・・・どうか、したかね?」

「課長・・・実は弁当を忘れてきてしまったみたいで。玄関なのか、電車の網棚か・・・」

そうボソボソつぶやく鈴木を見て「やっぱり、こいつは仕方ない・・・」と正直、宮田はそう思った。

「まぁ、ないんじゃ仕方ないじゃいなか。探してるうちに昼休みが終わっちゃう。・・・そうだ、よかったらいっしょに食べに出ないか?」

「そうですかぁ? しかし・・・」

弁当が心配なのか、それとも持ち合わせが少ないのか・・・とにかく鈴木は生返事だ。

「いいから行こう。・・・ちょっと話たいこともあるし。おごるから!」

宮田は強引に鈴木を連れだした。


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