THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行17 3/13


■異動宣告

やがて人事部長は、珍しく宮田の目を見て話し始めた。

「ジェイピー物流・・・知ってるねぇ?」

「・・・はい。存知ております」

そう答えながら宮田は血の気が引いていくのを感じた。
甘かった・・・。考えてみれば新規事業についての打診が人事部長があるはずはない。あるとすれば営業本部長。ジェイピー物流というのは、宮田の会社が50%の資本を出資している倉庫管理会社だ。

宮田はやや緊張したおももちで次の言葉を待った。

「宮田くん・・・実はキミに4月から、ジェイピー物流の方へ行ってもらいたい」

まったく寝耳に水の話だった。ジェイピー物流についての噂と言えば・・・業績が良くないことくらいしか知らなかった。

「・・・決定ですか?」

「ああ、社長決裁は降りている」

「・・・わかりました」

サラリーマンである宮田には、これ以外に答えるべき言葉はない。

「ジェイピー物流で扱っている品目に毒物劇物に指定されている薬品があることも知っているね?」

「はい。ウチの取り扱い品目でしたから」

かつて資材部で抱えていた化学品がジェイピー物流へ全面委託された経緯は宮田もよく知っている。

「あそこは倉庫会社だからね、毒物劇物取扱責任者を立てることが必要なんだが、この春、その担当者が退職することになってね・・・。そこでキミに助けてほしいんだ。化学の学科を専攻した者なら厚生省に届出すれば責任者になれるだろう?!」

「はぁ・・・そのようです」

「キミしか適任がいないんだ。まして本社の事情に詳しい者がいれば現場も助かるだろうし・・・」

「・・・・」

本社の事情に詳しかったら・・・こんな風にはならなかっただろう。
宮田は膝に置いた両手をテーブルの下でグッと握りしめた。


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