THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行17 2/13


■人事部長の呼び出し

宮田が人事部長に呼び出しを受けたのは正月気分もすっかりぬけた1月3週目のこと。

最も今年は2000年問題やら何やらで2日から会社に出たので、最初から正月気分なんてものはなかったし、家は家で受験生を抱えているものだから「いよいよ今年だ」という緊張感が高まるだけで、浮かれた気分はひとつもなかった。

実を言うと、呼び出しを受けた人事部長と直接話すのは今回が2回目か、せいぜい3回目。
昔の人事部長とはよく飲みにも行った仲だったが、去年の人事異動で福岡へ行ってしまった。
新しい人事部長は社外からやって来た人で、噂によると社長が前の会社にいた時の腹心の部下だったらしい。

宮田が呼び出されたのは人事部の隣にある小会議室だった。

「宮田です」

「ああ、資材調達課の・・・宮田課長ね。まぁ、掛けて」

「失礼します」

人事部長はテーブルの上に広げたファイルをめくりながら宮田の顔を見た。どうやら顔と名前が、またハッキリとしていない様子だ。

「・・・キミは理科系だったね」

「はぁ、化け学を専攻していまして」

「そう?! ・・・で、入社してからは、ずっと資材部に」

「ええ、当時は化学品も扱ってましたから・・・それで。最もずい分前に化学品の取り扱いはなくなりましたが」

「うん、そうだねぇ。じゃあ、せっかくの化学の知識も役立てられなくなっちゃって・・・もったいないねぇ」

「はぁ・・・しかし、さすがにもう慣れました。考えてみると学校時代に理科の勉強をしていた時間より、資材部で過ごした時間の方が、ずっと長くなってしまいましたから」

「・・・・」

人事部長は、ひたすらファイルに目を通す。まともに人の目を見て話さない人だ。
宮田は、なぜ自分がこの場に呼び出されたのか皆目見当がつかなかった。
しかし、今頃になって理科の話が出てくるなんて・・・ひょっとしたら新規事業の計画があるのでは?
宮田は、ほのかな期待を寄せた。


Next■