THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行16 6/9


■サインはV

オモテは思ったより寒くなかった。時折ビル風が吹くとヒヤッとする程度だが、体を動かしていればそう気にはならない。
隣の駐車場は会社で借りているもので、昼間は営業車が出ているからちょっとした広場になる。

もちろん柳は強引に三村を誘った。宮田にはない強引さで。

宮田、三村、柳・・・3人の間をボールが飛び回る。
宮田にとっては、ものすごく不思議な構図だ。ひょっとしたら三村にとっても・・・。

だが、そんなことに頭をめぐらせていられるのも最初の3分。その後、宮田は必死でボールを追い駆け回るのが精一杯だ。
柳がボールを落とすまでは、絶対に自分もボールを落とせない! そんな妙な意地もあった。
三村も案外とウマイ。こうなると、もう体力勝負だ。

険しい顔つきで宮田がボールを追っているところへ歩道の方から声がした。

「宮田くん」

「え?」

脇見をした宮田は、ついにボールを落としてしまった。三村と柳が息をきらしながら笑い声を上げた。宮田も照れ隠しに笑って見せたが・・・本当は、ものすごく悔しかった。

いったい誰だ? 邪魔したのは? 宮田があらためてフェンスの向こうを見ると、そこには年末で退職した大林専務・・・いや、元専務が立っていた。
白いタートルネックにジャケット姿・・・思えばスーツ姿以外の格好を見るのはこれが初めて・・・いや、浴衣姿なら見たことがある気もする。

「専務!」

「・・・いゃあ、もう専務じゃないよ」

「そ、そうでしたね・・・。どうしたんです? 今日は」

「いゃあ、まだちょっと引き継ぎとか・・・保険証を戻さなきゃいけなかったり・・・とかね」

「そうですか」

「懐かしいことしてるじゃないか?」

「ええ、年甲斐もなく」

「何言ってる、キミはまだ若いじゃないか・・・。いいな、こういうのは」

「そうですね・・・あ、専務、いや大林さん。年末はお付き合いできなくてすいませんでした。・・・そうだ、どうです? 今夜でも」

「いゃあ、今夜は珍しく社長のお誘いがあってね・・・。しかし、キミとも話したいし・・・どうだろう? 今週末じゃあ。会社が終わる頃出てくるよ」

「わかりました空けておきます」

元専務の後ろ姿をフェンスごしに追った宮田が振り返ると、三村と柳が2人でバレーボールを続けている。
時折、明るい笑い声を上げながら・・・。

何だ、あの2人ずい分気が合ってるじゃないか・・・宮田は言いようのない疎外感を感じずにはいられなかった。


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