THE THEATER OF DIGITAKE 初めての不倫旅行16 4/9 |
■宮田の提案 初出勤の朝は毎年、社長からの訓示がある。 とは言え、社員全員が入りきるほどの講堂があるわけでもないので、大会議室に集められたのは管理職以上。宮田もその一員として、ありがたくもありきたりな社長の話に耳を傾けた。 「・・・我が社も新たな千年紀を迎え、今大きな変革の時を迎えています・・・」 確か去年は 「・・・我が社も1900年代最期の年を迎え、今大きな変革の時を迎えています・・・」 と言っていたはずだ。きっと来年は 「・・・我が社も21世紀を迎え、今大きな変革の時を迎えています・・・」 と言うに違いない。この時、宮田はその程度に社長の話を聞いていた。 課に戻ってから、部署ごとの軽いミーティング。幸いそこに三村の顔はあった。そして柳の顔も。 年が明けたとは言え、前に会った時からそう何日も経っていないわけで、何かが大きく変わることもないのだが・・・。 強いて言えば集まった課の連中のうち、OL3人組の並び順がちょっとズレて、一番若い山本だけがまったく別の場所にいた。 ひととおりの話が終わって最後に宮田はこう言った。 「・・・それから、もちろん強制ではないんだが・・・昼休みにバレーボールでもしないか? 昔使ってたボールが見つかったんで持ってきているんだ。どうかな? 隣の駐車場で」 真っ先にシラケた顔をしたのは、今や1人カケたOL2人組。あとの連中は思いもよらぬ宮田の言葉に、どう対処していいかわからない・・・といった表情だ。 この日から宮田は、昼食を外に食べに行くのをやめた。 若い社員たちと同様に弁当を買ってくることにした。 最も男子社員の多くは外回りに出かけている者が多いし、女子社員たちは暗黙の了解で決められた会議室や応接室へグループごとにこもっている。 事務机で弁当を開いているのは、宮田と愛妻弁当をランチジャーに入れて持って来る鈴木だけだ。 宮田と鈴木の課の端と端。会話できる距離ではない。もちろん、宮田は2000年もどきの事件を起こした張本人が、そこで懸命にゆで卵のカラをむく鈴木であることなど知る由もない。2人はただ、もくもくとガランとした事務所内で視点も定まらぬままアゴを動かしているだけだ。 |