THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行16 3/9


■宮田のたそがれ

「あら、懐かしい写真」

リビングで写真の整理をする宮田の手元を妻がのぞき込んだ。

「あ〜触るな、触るな。今、ようやく年代順に並べたところなんだから」

「え? でも、年代順だったらコレとコレ・・・逆じゃないかしら?」

「どれ?・・・そうかぁ?」

「だってホラ。こっちの方が私の髪、短いでしょ? パーマかけてるし」

「しかし、短い方が先だろ? 物理的に言って」

「ヤですよ。長い髪を切って短くしたんじゃないですかぁ。良樹が生まれるから」

「そういえば、こっちの方がお腹が大きように見える気もするが・・・お腹まで見えないからなぁ、この写真じゃあ」

「間違いありません」

「・・・おまえ、自分がしてた髪型で年代覚えてるのか?」

「当然でしょお」

「俺は髪型なんて変えたコトないからなぁ・・・」

「アラ、でも白髪の数でわかるじゃない?」

妻はそう言って物干しに向かって行った。

「・・・・」

宮田は無言で写真の整理を続ける。
やがて社員旅行の写真が出てきた。ずい分昔の写真だ。もちろんこの中には三村も柳もいない。

そういえば社員旅行という行事がなくなってから、もうかなりになる。ひょっとしたら、三村や柳の年代の連中は社員旅行自体を経験したことはないかも知れない。

自分が若い頃は社員旅行で自分の休日が束縛されるなんて思ってもみなかった。会社が旅行させてくれると素直に喜んだものだ。
同僚といっしょにいることも楽しかったし、上司はまさに人生の先輩として頼れる人も多かった。
でも、それだからと言って自分が会社人間だなんて思ったことは一度もない。

いつから会社は言われた仕事をして給料をもらいに来るだけの場所になってしまったのだろう?

古い写真を見つめている宮田の鼻がホコリのせいかムズかゆくなった。
おもむろに鼻毛を抜くと・・・鼻毛も白髪になっていた。


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