THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行15 8/11


■初出勤

2日の朝、スーツ姿の宮田は玄関先に立った。

「じゃ、行って来る」

「・・・本当に?」

見送る妻のつぶやきに宮田は胸をはって答える。

「仕方ないだろう? 2000年問題なんだから」

「そうじゃなくて・・・それ。本当にそれ持って行くんですか?」

妻が指さしたのは宮田が抱えたバレーボールだ。

「いゃあ最近は運動不足の若いモンも多いから・・・な。どうせウチじゃ使わんだろ?」

「そうですけど・・・」

「満員電車じゃ持っていけないからな、ちょうどいいよ」

こうして宮田は自宅を出た。心躍らせながら・・・。

普段は通勤のラッシュでしか乗ったことのないお台場行きの『ゆりかもめ』は若いカップルと家族連れで賑わっていた。
スーツ姿だけでも充分に目立つというのに、宮田が手に持つバレーボールは、それ以上に注目を集める。
しかし、すでに三村のことしか思い描いていない宮田にとっては何のおかまいもなかった。

会社には誰も来ていなかった。
警備員に事情を話して中に入ると、そこは暮れから何ひとつ変わっていない閑散としたオフィスが広がっているだけ。

とりあえず机の上にバレーボールを置いて、着ていたコートを脱ぐ。・・・寒い。
空調を入れようと思ったが・・・ハテ? スイッチはどこにあるんだろう?!
しばらく入口のまわりを探すが見つからない。
仕方なく警備室に電話を入れてみた。

「空調が動いていないようですが・・・」

「集中管理システムになってるんで」

「すると・・・やっぱり2000年問題ですか?」

「いゃあ・・・今入れます」

アッケラカンとした警備員が電話を切ると、やがて部屋の中が次第に温かくなってきた。

「課長! おはようございます」

ボストンバッグを抱えた三村が入って来た。

「おお、三村クン。こんなに早く来てくれるとは・・・」

「何だか気になっちゃって・・・。それより、どうです? システムの方」

「そうだ! 私もたった今来たところでねぇ・・・まだ立ち上げてみてないんだ」

「じゃあ、私やってみますから」

ボストンバッグを置いた三村は、マフラーも取らずに端末の前に座った。
背後から宮田がのぞき込む。

端末のメインスイッチを入れると、ハードディスクがカラカラ音を立てて回りだした。

「三村クン。何かカラカラ言ってるぞ。やっぱり・・・」

「いえ、いつもそうです」

「・・・あ、ああそう」

「課長!!」

「どうした? 三村クン?!」

「立ち上がりました。・・・とくに問題ないよう・・・ですけど?!」

「・・・・」

柳のヤツ・・・と内心思った宮田だが、おかげで三村と2人きりで逢うことができた。システムも無事なようだし、これはむしろ感謝すべきだろう・・・とすぐに思い直した。


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