THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行15 6/11


■独身5人男

会社にエンジニアが到着したのは、昼過ぎのこと。
食事も取らずにエンジニアを待っていたのは柳、岡崎以下、5名。
連絡を受けて自宅からトンボ返りを命ぜられたのは独身ひとり住まいの男性ばかりだ。

眠い・・・腹減った・・・。疲労感の渦によどんでいた5名は、どこからともなくフラ〜ッと現れた作業服姿のエンジニアを見たとたん何も言えなくなってしまった。

「どこですかぁ」

つぶやくように言うエンジニアの目は真っ赤。案内した端末の前まで行くのも気力だけで歩いている・・・と言った感じだ。

端末の症状を聞いたエンジニアは慣れた手つきでキーボードを叩き始める。
あいかわらずパソコンはピクリとも動かない。

画面すら出てこない様子にすっかりお手上げとなっていた社の5名が見守る中、エンジニアが首をかしげた。
プロが首をかしげるくらいの大ゴトだ・・・やっぱり、ヘタにいじくり回さなくてよかった・・・。5人の誰もがそう思った。

これは時間がかかりそうだ・・・。エンジニアも来たことだし、しばらく応接室ででも休憩をしようと5人がその場を離れようとした時。

「・・・直りました」

エンジニアの力ない声に一同が振り返る。

「・・・電源はぬかないようにお願いします」

そう言って、エンジニアはさっさとその場を出て行った。
ガックリと肩を落とす5人。

「なんだよー!!」

「そういや今朝、鈴木さんが端末の裏のホコリに気づいて『大掃除の続きをして帰るか』なんて言ってたなぁ」

「それだよ、それ」

「ったく鈴木さんも悪い人じゃないんだけどなー。どーも余計なことしてトラブル起こす傾向があるよなー」

「お歳暮贈った相手から礼状が届いたって言ったら、礼状が来なかった先のことが心配になってまたお歳暮贈っちゃったりなぁ」

「で、相手が気を遣ってうちにもお歳暮贈ってきたっていう・・・アレだろ?」

「そうそう・・・。そこにある」

ロッカーのわきに一升瓶が2本包まれている。

「しかし、会社相手に一升瓶贈ってくる相手っていうのも・・・。建前じゃあるまいし」

「まぁ、鈴木さんの担当の会社だから」

「しっかし腹減ったなぁ・・・」

「このあたりじゃコンビニくらいしかやってないぞ・・・。新橋まで出るか?」

「いやー、もう限界だ。とりあえず何か食いたい」

「じゃあコンビニか」

「どうせコンビニ行くんなら、つまみ買って来ようぜ。俺たちが会社に来たの鈴木さんのせいなんだから・・・飲んじまおう、あの酒」

こうなると独身男たちは、まるで学生のノリ。
かくして他に誰もいないのをいいことに、応接室で酒盛りがはじまる。
しかし、自宅に戻ったところで話し相手のいない5人にとっては、それはそれで楽しい正月となった。


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