THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行15 5/11


■一難去って・・・

「課長! 柳っス。・・・あ! 明けましておめでとうございます」

「おー、柳クンかぁ。柳クン。柳クンだねぇ。おめでとう」

普段なら柳からの電話には顔をしかめるところだが、けげんそうに見つめる妻を目の前に、今日は満身の笑顔で宮田は答える。

「君は出勤だったな、2000年問題で。そう! 2000年問題・・・大変だな、お疲れさん。・・・で、どうした?」

「それがっスねぇ。大晦日を無事に越えたもんで、一旦自宅に戻ったんですが、トラブルがあったって言う連絡を受けて、たった今とんぼ返りしてきたところなんです」

「ウン?! それで?」

仕事人、宮田の笑顔が瞬時にして真剣な顔つきになった。

「今、エンジニアがこっちに向かってることろなんですが、一応、課長にもご報告入れておこうと思いまして」

「そうか・・・で? どんな具合なんだ?!」

「それが、端末がまったく立ち上がらない状態で・・・。俺たちじゃあどうにもならないんスよ」

「ウーム。そんな状態じゃあ・・・私が行っても・・・同じだな、きっと」

「とにかく、状況がわかったら、また連絡入れますんで」

「ウム、よろしく頼む」

眉をひそめたまま電話を切った宮田の顔を妻がのぞき込んだ。

「何かあったんですか? 会社で」

「ああ、やはりシステムにトラブルが発生したらしい・・・。厄介だな」

「部下の方?」

「そう柳・・・覚えてるだろ? 柳クン」

今度は妻が眉をひそめて言った。

「ええ・・・覚えてますとも」

宮田の家の玄関で酔っぱらって座り込んでいた男・・・それが妻の記憶にある唯一、柳の姿だった。

「会社の一大事だって言うのに、大丈夫なんですかぁ・・・その柳さんって人?!」

「大丈夫・・・・だと思う」

宮田夫妻は、あいかわらずごった返している境内を駅に向かって戻って行った。


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