THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行15 4/11


■初詣で初着信

例年は近くの神社で散歩がてらに初詣を済ます宮田だが、今年は妻の強い希望で地元では最も大きな川崎大師まで足をのばすことになった。

景気の悪い時ほど神だのみする人は多い。それにしてもメチャクチャな人出だ。
その渦に巻き込まれながら宮田と妻の裕美子は境内を目指して歩く。

「おいおい、これじゃ、いつになったらお参りできるのかわからんな・・・」

「仕方ないでしょお。今年は良樹の受験なんだから。少しでも強力なところにお参りしなきゃ」

「そんな、神社に強力もへったくれもあるもんか。第一、肝心の良樹が来てないんじゃ意味ないだろ?!」

「だって受験生なのよぉ。こんな人ごみの中に来て、インフルエンザでもうつされたら大変じゃない」

宮田は珍しく年末に急な休みをとった三村のことを思い出した。
本当に風邪でもひいたんだろうか・・・。それとも、何か鬱状態にでもなって・・・。とうとう暮れには彼女の相談にのることはできなかったし・・・。

ようやくお参りを済ませた宮田は境内のわきで妻を待っていた。
妻は良樹のために、お守りを買いに行っているところだ。

正月の時くらいしか着ない宮田の着物の懐には、携帯電話が入っている。
ひょっとしたら、この正月休みの間こそ、三村の連絡があるかも知れない。
おもむろに携帯電話を取り出して見ようとすると、良樹からもらったストラップが襟元にひっかかった。
ようやく取り出したところに妻が戻って来た。

「おまちどうさま。アラ? あなた携帯電話なんか持って・・・まるでお守りみたいに・・・。何か大事な用でもあるの?」

「い、いゃあ。せっかく持ってるんだから、出かける時には持ってきた方が何かと便利かな・・・と思って」

「そぉお?」

「それにだ。ホラ! 今年は2000年問題があるか、部下も会社に出てるし・・・何か緊急の連絡があったら困るだろ?!」

「・・・・」

妻は、ちょっとけげんそうな顔つきをした。

とその時、宮田が手にした携帯電話が見た目にもわかるほどブルブルと震えだした。
ギクリとする宮田。しかし、ここまで明らかに震えていてはゴマかしようもない。
三村からだったら・・・どうしよう???
ちゅうちょする宮田に妻は言った。

「あなた・・・電話・・・みたいよ」

「わ、わかってる」

宮田が息をのみながら通話ボタンを押すと電話の振動がピタリと止まる。
ジッとこちらを見る妻から目をそらすように宮田は電話を耳に当てた。

「み、宮田だ」


Next■