THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行15 2/11


■宮田家のお正月

「あなた! お雑煮できてるわよ!!」

毎年、元旦の朝になると宮田は妻の同じセリフで起こされる。
枕元に手を伸ばして眼鏡をとろうとすると、何だか違和感のある物体が指先に触れた。

一瞬、ドキッとして上体を起こすと・・・そこにはバレーボールが転がっている。
そうだ、年末に物置を掃除していた時に出てきたヤツ・・・。何となく懐かしくなって持ち出しては来たものの、置き場所に困ってとりあえず寝室のタンスにのせていた。それが転がり落ちてきたようだ。

そのバレーボールを片手に寝室を出ていくと、息子の良樹が廊下の反対側から歩いてきた。

「お! 良樹!! 明けましておめでとう。今朝はずい分早いじゃないか」

「うん、おめでと。・・・ね?! 今年はいくらくれるの? お年玉」

「何だいきなり。デカイ図体して、早起きしたのはお年玉目当てか?」

「決まってんじゃん。臨時収入、臨時収入」

「とにかく、そういうことは、まずうがいをして、雑煮を食べて・・・それから!」

「チェーッ」

「そうだ。メシ食ったら、ちょっとオモテでバレーボールでもしないか?」

「バレーボールう?」

「たまには体動かすのもいいぞ」

「やめとく」

「何で?」

「だってツキ指なんかしたら大変だもん。受験生だし」

「うーん」

今年も毎朝5回のうがいを終えた宮田はダイニングに入った。

「お! うまそうにできてるじゃないか? おせち料理」

「あら、あなた。おめでとうございます・・・今年もよろしくお願いします」

「ああ、こちらこそ・・・よろしく」

「これ・・・買ってきたんですよ、実は」

「何だ、おまえの手作りじゃないのか?」

「だって、できたの買った方が安いんですもの・・・どうしたんです? バレーボールなんか大事そうに抱えちゃって」

「水晶玉よりゃイイだろ」・・・と言いたかったが、昨年の悪夢がよみがえると困るので宮田は一瞬置いて答えた。

「物置で見つけたヤツ・・・なんか、これ見てたら体動かしたくなっちゃってな」

「あら〜、良樹はやめてくださいよ。ツキ指でもしたら大変ですから」

「・・・わかってるよ」

「じゃ、お雑煮いただきましょう。良樹呼んでくださる? ・・・お雑煮は私の手作りですから」

こうして今年も宮田家は、いつも通りの正月を迎えた。ひとり息子の良樹が受験生であること以外は、何らいつもと変わりない正月になる・・・予定だったが。


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