THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行14 11/12


■仕事納め

宮田の会社は28日の火曜日が仕事納めだ。
ということは27、28の月、火が、宮田にとって年内に三村と2人で会う最後のチャンス。

息子の良樹にもらったストラップのおかげで重みを増した宮田の携帯電話は、内ポケットに入れていてもその存在が容易に感じ取れる。
バッテリーはOK。スイッチもONになってる。
念のため月曜の朝は早めに出勤した宮田は、みんなよりいつも多少早めに来るであろう三村を待った。

始業10分前。三村の姿はまだ見えない。
かわりに始業前だと言うのに珍しく課長席の電話が鳴った。・・・三村からだった。

「おお、おはよう。どうした?」

「課長・・・すいません。ちょっと体調を崩してしまって」

「それは良くないな」

「それで・・・。できたら早めに田舎に戻ろうと思って・・・」

その言葉を聞いた瞬間、まだ、まわりに誰も来ていないのを確認した宮田は露骨に残念そうな顔をした。

「年内の処理は全部終わってます。ただ、大掃除をお手伝いできなくて本当に申し訳ないんですが・・・今日明日休ませていただけませんか?」

「・・・まぁ体が第一だからね。気にしなくていい。それに、大掃除と言ったって、君のまわりはいつも片づいているじゃないか」

「すいません」

「それはそれとして・・・すまなかったね。年内に相談にのれなくなってしまって」

「・・・いいんです。自分で考えなきゃならないことですから」

「そうか・・・そうだね」

電話を切った宮田が、ガックリと肩を落としていると、やがて課の連中が出勤してくる。
立ち上がった宮田は珍しく自分の方からOL3人組に近づいて言った。

「三村クン、体調を崩して今日明日は出てこられないという連絡があったから・・・よろしく頼むよ」

山本をのぞく2人が小声でささやいた。

「今日から正月休みなんて・・・ワタシたちより、やるじゃん」

書類の山をはさんで反対側の席に座っていた柳が立ち上がって言った。

「課長! 休みなんですか? 三村クン」

「ああ、さっき電話があった」

「・・・そうですか」

「何か頼んでる仕事でもあるのか?」

「いや、そうじゃないですけど・・・」

「そうか。・・・インフルエンザとかじゃないといいんだけとなぁ。・・・そうだ、柳クン。今日3時から2000年問題の件について最終ミーティングがあるようだから・・・頼むよ」

宮田は、そのままトイレの方へ歩き去る。柳はジッと三村の机を見つめていた。


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