THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行14 9/12


■風俗街の衝撃

カウンターバーの前で山本たちと別れた三村が時計を見ると、もう午前0時をまわっていた。
店の中も、そして街もあまりに賑やかすぎて時間の感覚がなくなっていたが、もう終電もない時間だ。

女ひとりで歩くには、この街は過激すぎる。2人と分かれて10mといかないうちに男が近づいて来る。それを振り切るように裏通りにまわって、とにかくタクシーがつかまえられる道まで出なければならない。

裏通りは三村にとって別な意味で、また過激すぎる。
軒を連ねる風俗店。

そこを駆け抜けるように通り過ぎようとした時・・・ちょうど店から出てきた出てきた男。

三村は一瞬、足がすくんだ。
どう見てもあの伸びた坊主頭は、柳に間違いない。

まぶしいくらいに点滅するネオンと、あちこちから鳴り響く音楽や呼び込みの声がこだまする。
その中に立つ柳を見た時、三村はさっき飲んだカクテルがいっぺんに回ってきたような感じがした。

思わず柳に近づく三村。気がついた時には右手が柳を頬を打っていた。

ピシャリ!

「・・・三村クン、どうしてこんなトコに・・・?」

柳は、ただただ呆然とするばかり。

「バカ」

柳を睨んだ三村は、吐き捨てるようにそう言うと、早足で歩き始める。

一瞬置いて三村を追った柳は、通りの角で三村の肩をつかんだ。

「おい?! どーして俺がひっぱたかれなきゃいけないんだ?」

立ち止まった三村は言葉につまった。確かに・・・柳の誘いを断ったのは自分の方だ。その柳が何をしてようと自分には関係のないこと。・・・なぜ、あんなことしてしまったんだろう。
三村は、そのまま振り向かずにつぶやいた。

「ごめんなさい、柳クン。私、どうかしてた。でも・・・」

「でも・・・何だよ」

「柳クンには似合わないでしょ?! ああいう場所・・・」

そう言われて、何となく納得しかかった柳だが。

「そんなこと言われても・・・俺だって男だし・・・」

「・・・そうよね。・・・だけど男らしいって、そういうことなの?」

三村がそう言って振り返ったとたん、柳の両手が三村を包んだ。
気がつくと三村の唇は柳の唇でふさがれてしまった。

そっと唇を離した柳がささやくように言う。

「好きな娘とキスしたい・・・これが男らしさだよ」

両手で柳を払いのけた三村は目に涙をにじませながら叫んだ。

「バカ! バカ、バカ、バカ!!」

柳が次の言葉を探す間もなく、三村は走り去ってしまった。


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