THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行14 4/12


■山本の彼氏

OL3人組のうちのひとり山本に珍しく誘われた三村は、クリスマスで賑わう新宿の繁華街の一角にあるカウンターバーに腰を下ろしていた。

「ごめんねー、遠くまでつきあわせちゃってぇ」

山本は大きな目をバチバチさせながら言った。
会社のあるお台場から新宿までは山手線半周以上の距離。都内で30分以上の移動は確かにやや遠い感じがする。

「いいのよ別に。何も用事があるわけじゃないし・・・。それに新宿もひさしぶり、あいかわらず賑やかよねぇ」

三村も上京してきたばかりの頃は、興味本位でよく新宿、渋谷には足を運んだものだった。しかし、やがてその街の雰囲気に馴染めないことに気づくと、ひとりで来ることはなくなった。たまに田舎の友達が遊びに来た時、なんとなく案内する程度のことだ。

「でも、この店ならサ、かなり安く飲めるのよ。ホラ、カウンターの一番はしに立ってる。アレが私の彼。うまく伝票ゴマかしてくれるから」

白いYシャツに黒い蝶ネクタイをつけた山本の彼氏は、なかなかの二枚目だった。

「・・・なかなか、カッコいいじゃない?! 彼氏」

「でしょう? でもね・・・お金ないのよ」

山本はそう言うと、注文もしないのに出てきたドライマティーニに口をつけた。

「アルバイトって言ってたわよね?」

「そ! バイト。本職は、舞台役者なの」

「俳優さん? すごいしゃない?!」

「すごくないわよ、食えない俳優なんか・・・。でもね、どうやら来年はちょっと大きなお芝居に出られそうなの。先輩の役者に引っぱられて・・・。佐川啓介って知ってる?」

「ゴメン、よく知らない」

「私もよく知らないんだけど、昔、NHKで体操のお兄さんやってた人らしいわ。その人が演るお芝居らしいの」

「じゃ、やっぱりスゴイじゃない? テレビにも出るようになるかも、ね」

「そうね・・・。少しでも稼げるようになってくれないと・・・ね」

山本はすでに飲み干してしまったカクテルグラスのふちを指で触りながら言った。

「・・・実はね。彼に結婚申し込まれてるの」


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