THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行14 2/12


■別居妻の憂鬱

ガラガラに空いた千葉からの上り電車。
宮田浩一郎は、ぼんやりと雑誌の中吊り広告をながめていた。

『さようなら! 1900年代』

さようなら・・・寂しい言葉だ。
折り畳んだ紙袋の中には、おそらく来年は使われないであろうサンタクロースの衣装が入っている。

察しのいい木下の女房は、すぐにサンタクロース姿の宮田を玄関先に招き入れてくれた。その察しの良さが災いした感もあるが、それは決して彼女のせいではない・・・だろう。

5歳になる木下の娘が寝ていなければいいと思ったが・・・寝ているどころか目をランランと輝かせて玄関に出てきた。どうも夜更かしする子のようだ。

「あー、このサンタ、眼鏡かけてる。へんなのー」

宮田は一瞬、ムッとしたが、とにかくプレゼントを渡すことにした。
木下の娘はプレゼントを渡すと珍しく愛想良く「ありがとう」と言った。
・・・さすが、女の子だ。

すぐに立ち去ろうとした宮田を木下の女房が追ってオモテへ出る。

「すいません・・・宮田さん。木下が無理なお願いをしたみたいで・・・」

「いや、うちの息子なんかもう大きくなっちゃってるから・・・ひさしぶりでサンタクロース気分を味わわせてもらいましたよ」

「いえ、そうじゃなくて・・・前の話」

「前の・・・あ、ああ」

以前、ホテルで木下の愛人を宮田の愛人だと言いはって会った時のことを言っているんだ・・・と宮田は思った。しかし、嘘つきの片棒をかついだ者としては何ともバツが悪い。

「実は今日、木下から届いたんです・・・これ」

差し出されたのは一通の封筒。中には離婚届が入っていた。

「これは、あいつから?」

「ええ」

「あんなに可愛らしいお子さんがいるのに?」

「・・・・」

宮田も次の言葉が見つからない・・・が、とりあえずサンタのヒゲだけははずすことにした。

「聞きました。・・・会社が倒産したこと。木下としては、きっと私たちにまで借金を背負わせたくないんだと思うんですけど・・・」

「それは・・・そうかもしれない・・・な。サンリーマンの私には詳しいことはわからないけれど」

木下の女房は唇をかんだまま、宮田に頭を下げると玄関に戻って行った。
玄関では、まだ娘が母を待っている。

「今日のサンタは・・・パパじゃなかったね」

閉じかけたトビラの隙間から、そんな声が聞こえた。


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