THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行13 8/10


■意外な誘い

結局その後、宮田と三村とはすれ違いのまま一日が過ぎてしまった。

年輩の恩師が自室の荷物整理をしているのを見かねた宮田は、夕方になっても専務の部屋へ手伝いに行ったままだ。

クリスマス・イヴの予定をなくした三村が仕方なく帰ろうとした時、珍しい人から声がかかった。
OL3人組のうち、今日は有給をとらずに出てきていた山本だ。

「三村さん。もう帰る?」

「ええ、そろそろ」

「・・・ねぇ、今夜、何か予定ある?」

三村は一瞬、柳のことを思い起こした。クリスマス・イヴの夜を季節感のない自分のアパートで過ごすのは何とも寂しい・・・。こんなことなら、たとえ柳クンでも・・・と少しは思ったが完璧に断ってしまったし、第一、柳はまだ外回りから戻っていない。

「とくに・・・何もないけど」

「よかったら・・・少しつきあってくれない」

考えてみれば山本と2人で話をする機会など、まずなかった。いつもは3人組のひとり・・・としてしか考えていなかったから。

「いいわよ」

「よかった。・・・実は彼が働いている店が新宿にあるんだけど、仕事が終わるのが遅くて・・・。できればその間だけ、いっしょにお話できたら」

三村は少しカチンと来た。山本も所詮、自分勝手な3人組のうちの一人だ。しかし、どうせ遅くまでつき合う気もないし・・・。クリスマスの街も歩くのもいいかも知れない。

「じゃ、行こう・・・か」

宮田が課に戻った頃には、誰一人そこにはいなかった。
しばらく三村の席を見つめてぼんやりしていたが、時計を見るとややあわてた様子で会社を出た。手にはシッカリと大きな紙袋に握りしめて。


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