THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行13 6/10


■思いこんだら・・・

その日の午前中、柳は珍しく外出しなかった。年末で得意先への挨拶も忙しい時期だというのに。

柳は一大決心を固めていた。・・・今夜こそ三村を誘おう。
クリスマス・イヴの当日になって女性を誘うのは、やや無理があると本人も気づいてはいた。本当は、せめて忘年会の夜に約束するべきだったのだが、つい目の前の酒に誘われて・・・気づいた時にはネクタイは頭に締めいてたものだから・・・。

そういう、いいかげんな自分を断ち切るためにも今夜は是が非でも目的に向かって邁進しなければならない。
チャンスは昼休みしかない。12時が近づくにつれて、柳の頭の中には「巨人の星」のテーマソングが力強く鳴り響くようになってきた。

若手の社員はたいてい昼には近くで弁当を買って来て、空いている会議室で食べる。
予約をしているわけでもないのに、それぞれの会議室はどのグループがどの部屋を使うのかが暗黙の了解で決まっている。
普段、この時間はたいてい外にいる柳は、三村がどの会議室に入ってしまうのか知らない。一度、どこかの会議室に入られてしまったら、昼休みが終わるまで出てこないだろうから、話をするとしたら弁当を買いに行く直前しかない。さすがに午後は外回りをはないとヤバイし・・・。

12時になった。まるでバントをしたバッターのように、いち早く廊下に出た柳は、ドアの陰からピッチャーの様子をうかがうように三村を見た。

幸い三村はひとりで席を立って廊下に向かっている。盗塁するなら今だ。

「三村クン」

「キャア! びっくりした。なぁに・・・柳クン」

「この間の約束の件なんだけど・・・」

約束と言われても三村にはピンと来ない。そんなものした覚えはなかったが、以前、柳の誘いを一度断った件を言っているのだろうという察しはついた。

「・・・今夜、どう?」

三村は肩をすくめて言った。

「ごめんなさい。約束があるの・・・」

「・・・男の人?」

ややトーンダウンした柳がそう尋ねると、三村は小さくうなずいて行ってしまった。
完全なアウトだ。

何も考えられなくなった柳は、その場に立ちつくすと、いつもの行動に出た。
・・・ヒンズースクワットだ。

そして、柳がヒンズースクワットをはじめると必ずと言っていいほど声をかけるのが、例によって・・・風俗好きの岡崎。

「何やってんだぁ、柳」

「・・・・」

「お! そうだ!! また、いい店見つけたんだよ。ガイジン専門。行くか? 行くか?」

柳は一心不乱に上下運動を繰り返した。


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