THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行13 2/10


■青春時代は歴史の中

宮田の建売住宅の中で最も携帯電話の感度がいい場所は階段の途中であることが判明した。アンテナが3本ちゃんと立ってる。

2階の良樹の部屋からは物音ひとつしない。おそらく、まだ寝ているのだろう。

さて、この位置に携帯電話を置いておくのはいいが・・・別の部屋にいてはベルが聞こえないかもしれない。
宮田はヒザかけ用の毛布と読みかけの歴史劇画『大宰相』を持って階段の途中に腰を下ろした。

妻は洗濯中だ。とりあえず、しばらくここで本でも読んでいよう・・・。

歴史劇画『大宰相』は戸川猪佐武の『小説吉田学校』を原作に『ゴルゴ13』のさいとうたかをが劇画仕立てにしたもので、3cmくらいの文庫版が全10巻ある。
息子へのクリスマスプレゼントにと本屋で衝動買いに近い状態で買ったが、考えてみれば受験生の息子に今はこれだけのボリュームのものを読んでいる余裕はないだろう。とりあえず、まず自分でボチボチ読んでみようと考えていたところだ。

首相のポストを争う男たちの話は、まるで戦国時代の物語を読んでいるようでおもしろいが、一サラリーマンとしては、なかなか自分に置き換えて考えてみるということもできず、今いちピンと来ないところもある。
ただし、時代背景の解説として万博の話題や当時の流行歌などの話題が出てくると、すごく懐かしい。と同時に自分が青春を過ごした時代も、もう過去の歴史として語られるようになってしまったことをあらためて感じた。

妻は洗濯から掃除にうつったようだ。まだ、掃除機の音は遠かったが、それは徐々に階段の方へ近づいてくる。

いよいよ掃除機の音は、階段のすぐ下まで迫り、宮田の尻にも振動として伝わってくるようになった。

ふと顔を上げた妻が言った。

「あら、あなた。そんなところで何なさってるんです?」


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