THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行12 11/11


■忘年会のあと

年内にはもう一度だけでも課長と2人だけで話をしてみたい・・・という気持ちは三村にもあった。

決して不倫の王道を進もうという積極的な思いがあるわけではなかったが、見合いを断られたことについて話を聞いてもらって、自分なりの結論を出してから田舎に戻りたかった。それに・・・。その先に本当に王道があるのかどうか? のぞいてみたい・・・という興味本位の気持ちがないと言えば嘘になる。

2軒目のスナックではお決まりのカラオケ大会がはじまった。会議の時には発言ひとつしない岡崎が先頭に立って司会を務めている。・・・これもお決まりだ。

「さて、次はいよいよ大御所、宮田課長にご登場願いましょう」

酔って我を忘れるということがない宮田にとって、カラオケは最大の鬼門である。宮田コールが起こる中「いや、いや」と照れてみせるのが関の山。最後にはマイクを握らないとおさまらないことは、よく知っているのだが・・・。

「では、助っ人をお願いすることにいたしましょう。紅一点、三村ちゃんとのデュエットで・・・曲は・・・エ〜ト」

岡崎が歌本をめくりはじめた。三村とのデュエットと聞いて、宮田の心臓は高鳴った。

「曲は・・定番『銀座の恋のものがたり』レッツ・ミュージック!!」

イントロが流れ出す。小さなステージに近い席にいた三村は、少しモジモジしながらも席を立ってマイクを握った。奥の席にいた宮田は、ひたすら「デュエットかぁ〜、照れるなぁ〜」と頭をかいている。さて、頭をかき終わったらイントロが終わる直前には席を立って三村の隣に行こうと構えてはいたが・・・。

「よーし!! じゃあ、俺がかわりに歌おう!!」

と立ち上がったのは・・・柳だった。

一瞬、目が点になる宮田。しかし、歌ははじまってしまった。こうなったら・・・拍手するしかない。

2番が流れる頃になると、柳は三村の肩に手をかけた。それを見た宮田は内心ムッとして・・・柿のタネを頬張った。

一次会から合わせて4時間以上もの間、同じ場所にいたというのに、とうとう宮田と三村が会話をするチャンスは訪れなかった。もう最終電車の時間は迫っている。明日は休みだから、場合によってはこれからでも・・・と思って店の前のガードレールの近くに立つ三村を遠目にながめると・・・その視界をさえぎるように柳がグルグルとスキップしている。

「課長、ごちそうさまでしたぁ」

一同が宮田に礼を言う。そのまま駅までゾロゾロ歩いていると、やっと三村が隣に来た。急激に歩く速度を落とした宮田は正面を向いたまま小声で言った。

「三村クン・・・この間は、すまなかったね。話の途中で・・・」

「いえ、こちらこそ・・・」

正面を見たままで話したので三村に伝わったかどうか心配していた宮田は少しニヤけた。

だが、その先何を言ったらいいか・・・。いきなり年内のスケジュールについて打ち合わせを開始するわけにもいかない。
さて、話をどうそっち方面に持っていこう? 宮田は、街頭のイルミネーションを見ながら、とりあえずつぶやいてみた。

「・・・クリスマスだねぇ」

何の解決にもならないようなセリフだったが、三村はのってくれた。

「課長のご自宅では、やっぱりご家族でやるんですか? クリスマス・パーティー?」

「いゃあ、やってたこともあるけど・・・。今年は息子が受験でね。そういう雰囲気じゃないんだ」

「そうですか・・・」

宮田は話題をややスケジュール調整方面にシフトしてみる。

「君は・・・毎年、どうしてる?」

「私は・・・ひとり寂しく・・・テレビを見るだけ」

宮田の脳裏には、一度だけ行った三村の部屋の情景が浮かんできた。今年のクリスマス・イヴは天皇誕生日あけの金曜日だ。街は賑わうに違いない。その季節とは、まったくかけ離れた空間・・・それが三村の部屋だった。

「あの・・・課長。もし、よかったら明後日のクリスマス・イヴの夜・・・」

ドキンとした宮田が三村の方を見ようとしたその時、ドカッと後から何かがぶつかってきた。・・・またしても柳だ。

「すいませ〜ん、課長! しかし、楽しいっスね〜! ランラランラ♪ランララン♪」

柳はそう言うと、さらにスキップを続けてあっという間に走り去った。それを追うように岡崎が来る。

「すいません、課長。毎度・・・」

「ああ、いや・・・うん」

気がつくと、もうそこは駅の改札口だった。

「じゃあ、課長。ボクらは私鉄なんで・・・ほら、三村クンもこっちでしょ! 課長にお礼言って!! 」

岡崎にうながされた三村は仕方なく宮田に会釈して改札に吸い込まれて行く。

「じゃあ、みんな。気をつけて・・・な」

宮田もそう言って、軽く右手を上げて見せるしかなかった。

・・・以下、12月23日へつづく

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